『岸辺のアルバム』は、やはり凄い作品であった・・・【山椒読書論(256)】
放送当時、大評判になった連続テレビ・ドラマ『岸辺のアルバム』(DVD-BOX『岸辺のアルバム』<鴨下信一演出、八千草薫・杉浦直樹出演、角川書店>)を、仕事に追われ、見逃してしまったことが、やり残した宿題のように心の中で長いこと、わだかまっていた。
そこで、すっきりさせようと、原作を読み、DVDを見た次第である。
『岸辺のアルバム』(山田太一著、光文社文庫。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)は、私の期待を大きく上回る一冊であった。大手商社の部長として仕事に忙殺される夫45歳、家庭を守る美しい妻38歳、私大英文科1年の才色兼備の娘、大学受験を目前に控えた息子。東京郊外の多摩川沿いの一戸建てに暮らす一家は、平穏無事を絵に描いたような存在であった。
ところが、ある日の午後、妻にかかってきた一本のいたずら電話から、歯車が狂っていく。
「ひどいわが家だった。家には浮気の母がいて、姉は外国人に遊ばれてしまったのだ」、「いろいろ文句はいっていたが、水準以上の家族だと思っていたのだ。母は、周囲の母親族より美人だし、あかぬけしているし、時折はうるさいが教育ママなんかではないし、仲々いない母親だと思っていたのだ。姉だってそうだ。エゴイストだけれど、母に似ていい顔をしているし、頭は確実に自分よりいいし、昔はもう少し優しかったし、いい思い出だっていろいろあるのだ。それがとっくに男と寝ていて、強姦なんかもされていて、それを弟に話して復讐に行かせるというのも、考えてみれば、羞恥心のない話じゃないか、と思った。ひどい家族だ。こんなひどい家族をかかえて、ぼくは4日後に受験をするんだ。合格するわけがないじゃないか」。
事態はこれだけでは済まず、夫の会社が破綻の瀬戸際に立たされる。
そして、最後の拠り所ともいうべき家が、台風による多摩川の決潰で流されてしまう。「台風は温帯低気圧となって消え、おだやかな9月の青空の下で、濁流だけが勢いを落とさず、2日間次々と家をのみ込んで行くのは異様な眺めであった」。
一縷の希望を感じさせるラストの描写が印象的な、家族とは何かを考えさせる作品である。