アメリカのビジネスパースンの考え方・生き方を教えてくれた本・・・【山椒読書論(361)】
アメリカのビジネスパースンの考え方・生き方を知ろうとするとき、『エグゼクテイブ・オフィスの朝――会社人間のアメリカ』(ハロラン・芙美子著、日本経済新聞社。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)が参考になる。
「出世しない人とする人の間には、一つ、画然とした違いがある。その日その日を漫然とすごし、まわりの環境のまま漂う人、自覚した努力の嫌いな人、または出来ない人の芽が出ることは少ない。一方、現在の自分の位置を過不足なく評価でき、次にどういうところに到着したいかというイメージがあり、そのためにはどうしたらよいかという、はっきりとしたコースがわかっている人、すなわち、『戦略』のたてられる人は、周囲から認められやすいし、また、そういう人に限って、運もつきやすい。マキャベリは、『君主論』の中で、幸運という女神は、強い男の前にひれ伏すものだと言ったではないか。これは、『俺が、俺が』と目立ちたがる人が出世しやすいと言っているのではない。アメリカの企業社会でも、実力は二の次にして、過剰に自分を売りこみ、人を押しのけて出世する人、社内人事にのみエネルギーを費やす人は、ある程度までは昇進しても、底が割れやすい」。この点は、日本のビジネスパースンも同様である。
「アメリカの企業にとって、この人物は信頼に足るかという一点が、最大の関心事である。もちろん、能力が、前提条件であるが、人間性もそれに劣らず重視される。何をもって信頼するに足る人間とみなすかの最大公約数は、真面目、着実、仕事熱心、協調性があるといったところ。この上さらに、独創力とか、抜きんでた能力があれば文句はない。しかし、根本的には、組織の一員として機能出来るかどうかが大問題である」。
「長年、いろいろなアメリカ人男性の仕事ぶり、人間性を見てきたが、会社人間、仕事だけがとりえの人で大成したのは少ない。彼らの発想法には柔軟性がなく、仕事はくりかえしにおちいりがちである。『変化』『未知』に対するおびえがあり、既成のルールへのよりかかりがみられる」と、なかなか手厳しい。
「ビジネスマンは、いつもストレス要因にさらされている」。全く、そのとおりだ。
「アメリカ人ビジネスマン、ビジネスウーマンが、しばしば語るのが、社内で、良き助言者に恵まれる必要である。中堅から上の管理職にいて、若い部下に、適切な忠告をし、役にたちそうな社内、社外の人物に紹介し、未経験な部下を一人前のビジネスマンに仕立てあげる訓練をする人を、mentor(メントール、良き師)と呼ぶ。会社の中枢にいて、かつ、人格的にも共鳴出来るmentorにめぐりあうかどうかで、運が決まってしまう」。私の長い経験からも、若い時は、よいメンターを見つけること、そして、部下を持つようになってからは、よきメンターになることを心がける必要があることを痛感している。
28年前に出版された時、大いに刺激を受けた本だが、今回、読み直して、著者の考察が少しも古びていないことにびっくりした。