27歳・独身の女性学芸員と、73歳・一人暮らしの老建築家が神田神保町の古本屋で出会い・・・ ・・・【山椒読書論(524)】
コミックス『黄昏流星群(2)――鎌倉星座』(弘兼憲史著、小学館)に収められている「鎌倉星座」は、味わい深い短篇小説の趣を漂わせている。
27歳の国分みゆきは、群馬県T市の市立博物館の学芸員。3人のボーイフレンドから結婚を申し込まれているが、どの男も、もう一つ物足りない。上司の指示で、マケドニア王国の建築物に関する稀覯本『アーキテクチュア・オブ・マケドニア』を探しに神田の古本屋街にやってきたみゆきは、ある古本屋で、いささか口の悪い老人に出会う。その老人も一緒になって、あちこちの店を回って探してくれたが、見つからない。ギリシャ文明の建築関係の書物ならかなり持っているという老人の言葉に誘われ、彼の自宅に泊めてもらうことに。「鎌倉だなんて、知らなかった。このおじいちゃんの言い方だと、すぐ近くに家があるみたいだったのでOKしたのに・・・。こんな遠くまで・・・。ま、いいか、どうせヒマなんだし、春の鎌倉を散歩するのも悪くない」。
この73歳の老人が著名な建築家の北村修一ということが分かり、二人は食事をしたり、メールのやり取りをするようになる。「図々しいお願いだが、私を4人目のボーイフレンドに加えてくれるかな?」。「喜んで」。
妻に死なれて一人暮らしの北村の家での夕食時、ワインを飲み過ぎたみゆきは、終電に間に合わなくなり、泊まることに。どれくらい時間が経ったのか、ふと目覚めたみゆきは、北村の膝枕で寝込んでしまったことに気づく。「私の右耳の下に固いものを感じる? これって、ひょっとしたら・・・。北村さんがオトコになっている」。ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ――。
この夜は何もなく終わり、それからは会うこともなく時が過ぎていった。
夏も終わりに近づいた頃、突然、北村からみゆきに送られてきた小包の中身は・・・。