榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

引責辞任した営業本部長の、その後の、身につまされる物語・・・【山椒読書論(530)】

【amazon 『黄昏流星群(530)』 カスタマーレビュー 2020年1月22日】 山椒読書論(530)

コミックス『黄昏流星群(18)――邂逅する惑星』(弘兼憲史著、小学館)に収められている「老星は死せず」は、大手食品会社の食中毒事件で引責辞任した営業本部長の、その後の、身につまされる物語である。

事件後、妻を亡くし、娘一家と同居している月岡は、カルチャーセンターで料理を習い始める。「はっきり言って、私はこの家では厄介者――。もう稼ぐ能力はないし、ただの穀潰しだ。棚ひとつ作れないし、電球の交換もうまく出来ない。ガスのコンロすら一人ではつけられない。娘に叱られるのもあたりまえだ」。これまで一度も料理や洗濯をしたことのない私には、主人公の立場が他人事とは思えないのだ。

カルチャーセンターで出会い、自分に殊更に親切にしてくれる森川洋子、28歳に一目惚れするが、その思いは敢え無く破れてしまう。「いい年をして私は大変恥ずかしい勘違いをした。何が老いらくの恋だ!」。

月岡が娘一家の外出中に天ぷら鍋を火にかけたまま、ちょっと外に出た隙に、自宅が全焼してしまう。「結局、娘夫婦は孫を連れて都心に近いアパートに移っていった。私は焼けた家からほど近いところに、6畳2間キッチン付きのアパートを借りた。あの火事で持っていたものが殆ど消失したので、手ぶらで入居した私にはとても広い空間に思えた」。

その後、61歳の月岡に、思いもかけない運命が待ち構えていたとは! それも、公私に亘って。