榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

親の格差が子ども世代で再生産され続けると、日本は階級社会になってしまう・・・【山椒読書論(550)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年4月13日号】 山椒読書論(550)

新型格差社会』(山田昌弘著、朝日新書)は、コロナ禍で一段と深刻度を増している格差を考える上で、必読の一冊である。

著者は、「家族格差」、「教育格差」、「仕事格差」、「地域格差」、「消費格差」という5つの視点から考察しているが、私が、とりわけ衝撃を受けたのは、「家族格差」と「教育格差」である。

●家族格差――
「現在では、高齢になっても互いにラブラブで頻繁に旅行に行ったり、同じ趣味を楽しむ夫婦もいれば、完全に愛情を失って形だけの婚姻関係を続けている夫婦もいる。さらには、『家庭内離婚』がさらに進んで『家庭内別居』状態の夫婦もいる。その結果、家族外に愛情を求める人も出てくる。すなわち、『夫婦間にどれだけ愛情があるか』に関わる家族格差がかつてないほどまでに広がっているのが日本社会の実態なのです」。

「家族格差の問題は、高齢者のクオリティ・オブ・ライフに直結します。仲が悪い夫婦の夫は、家庭の中でも孤立しがちで、子どもたちからの信頼関係を失っていることも珍しくありません。もちろん妻が温かい手料理を毎日作ってくれるといったこともありませんから、外食やスーパーで買った弁当で済ませることが多くなり、健康状態も悪くなっていきます。ある医学的な研究では、一日に一回愛し合っている人とハグをすることで、オキシトシンという愛情ホルモンが脳から分泌されて健康を増進するという報告がありますが、当然そのような機会もとうの昔に失われています。最近ではそうした世の中の動きを受けて、愛情格差で下層にある男性の心の安寧を得るために、高齢者男性に特化したキャバクラなどの風俗産業も生まれてきていると聞きます」。

「『主に夫の収入で中流生活を維持する』という戦後型家族が限界点に来ている――私はそう考えます。・・・(コロナ禍では)役割分業でつながることはできなくなり、人間同士のリアルなコミュニケーションを基にした夫婦の関係が求められるようになったのです」。

●教育格差――
著者は、親の格差が子ども世代で再生産されると警鐘を鳴らしている。「コミュニケーションを重視する社会では、仕事の遂行上、従来型の教育では重視されなかったスキルが求められます。具体的にはITを使いこなす能力であり、英語や中国語などの語学能力です。その上で自分の考えを魅力的に伝えるプレゼンスキルや、相手の欲求を正確に察知する能力、幅広い分野の教養といったものを備えた人が、多くの企業に必要な人材として求められるようになっていきます。実際に大学生の『就活』の現場では、『デジタル格差』『コミュ力格差』『英語力格差』が広がっています。学生時代までにそれらの力を身につけた人とそうでない人で、大きな差が生まれているのです。・・・新しい経済に必要とされる能力は、今の学校教育だけではなかなか身につかないものです。親がパソコンを家庭でも使いこなして仕事をしていたり、常時当たり前のように英語を使っている家庭に育った子どもは、『自分もパソコンや英語を使えて当たり前』という意識を自然に持つでしょう。海外赴任を体験した子もそうでしょう。対して、パソコンや外国語と無縁な親の元に育った子どもは、ある程度成長してからそのスキルをゼロから身につけることが求められるわけです。生まれた家庭によって、ITスキルや英語力の格差がある――要するに、現在生じている格差は競争の結果ではなく、生まれた家庭で決まってしまう。つまり、身分制の時代に近い状況だということです」。

「子どもの知的な興味や関心は、親自身の教養に対する関心に大きく左右されます。家に大きな本棚があって、そこにたくさんの本がある家庭に育った子どもと、まったく読書をしない親のもとに育った子どもでは、知的好奇心に大きな格差が自然に生まれてしまうのです。OECD(経済協力開発機構)の調査でも、自宅にある本の冊数と子どもの学習成績の間には相関があるという結果が出ています。・・・新型コロナウイルスは、親の格差が子どもの教育格差につながる実態をも浮き彫りにしたといえるでしょう。このように、コロナ禍が顕在化させた親の状況による教育格差を、公的に埋める手だてを考える時期に来ています」。

「親の所得が子ども世代に影響し、格差が再生産されている状況です。この日本の『教育格差』の広がりによって、10~20年後に社会階層の固定化がもたらされることが予想されます。極端にいえば、日本は自ら階級社会への道に戻ろうとしているのです」。

問題を解決するには、その問題を生じさせている状況の実態・原因を知ることが必須である。この意味で、本書は、豊富なデータを駆使し、著者独自の鋭い分析を加えることによって、問題剔抉に成功している。次回の著作で、具体的な解決策が示されることを期待したい。