榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

金はあるが、下品で学歴もなく、家柄もない醜い中年男と、若く美しい妻の間で起こったこと・・・【山椒読書論(608)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年11月19日号】 山椒読書論(608)

コミックス『人間交差点(2)――消えた国』(矢島正雄作、弘兼憲史画、小学館)に収められている「暗い傾斜」には、愛というものの複雑さを思い知らされた。

孤児の身から社長にまでのし上がった北見良夫は、倒産寸前の取引先の男から娘をもらってほしいと頼まれる。資金援助が目当てであることは分かっていたが、「夏子はあまりにも若く、美しかった・・・!!」。

「夏子は夫の私によくつくす完璧な妻だった。しかし、つくせばつくすほど、完璧であればある程、そして、美しければ美しい程、私の心の中で夏子に対しての疑惑がつのる一方だった・・・。この女は私など愛していないッ。下品で学歴もなく、家柄もないこんな鼻の大きい醜い中年の私を愛している筈がないのだ。だから私もこの女を愛してはいけない。これは私が死に物狂いでつかんできた今の地位と、それによって得た金で買った女だ!!」。

「だが、そんなある日のこと、夏子は突然姿を消した・・・!! S山の附近でガイドや山小屋の番人をしている南条という男と夏子が一緒に暮している、という興信所の報告を受けたのは1か月前の事だった」。

「私をおびき寄せ、遭難とみせかけて私を殺し、財産を奪おうなどというお前たちみたいな青い獣達の罠にはまる私ではないぞッ。本当の獣の恐ろしさを教えてやろう。遭難に見せかけて殺されるのはおまえの方だッ。夏子は誰にも渡さん。あいつは私が金で買った女なんだ!!」。

やって来たS山で、南条と共に突然の岩崩れに襲われ、瀕死の状態となった塩見が南条から聞かされたこととは!