榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

一見、浮浪者のような若い夫婦が、なぜ、こういうことをしているのか・・・【山椒読書論(621)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年12月4日号】 山椒読書論(621)

コミックス『人間交差点(15)――送り火』(矢島正雄作、弘兼憲史画、小学館)に収められている「二人の場所」は、「私が初めて『二人の場所』に出会ったのは、ある月曜日の早朝のことだった」と始まる。

「もちろん私は、その時、二人が夫婦であることも、彼らが乗客達に『二人の場所』と呼ばれていることも知らなかった・・・。私の目には、ただの浮浪者の男と女にしか映らなかったのだ」。

「どうしてキミ達は、いつも電車の中で弁当なんか食べているのかね? こういう公共の場で、弁当なんか食べるものじゃない。第一、キミ達の行為は、明らかに街や車内の美観をそこねている。もう少し遠慮して生きたらどうかね」。

「酔いのせいもあった。つねに居場所のはっきりしていない自分の生き方への苛立ちもあった・・・とにかく私はこの二人と話してみたかった」。

「意外だった・・・二人の交わす言葉があまりに意外だった」。

一見、浮浪者のような若い夫婦が、なぜ、こういうことをしているのかが、明らかにされていく。

「二人に必要な場所は、大きな家でも美しい家でもなく、お互いがすぐ傍にいる場所だったんです」という二人の言葉が、胸に沁みる作品だ。