榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

地元の漁師の生活がいいと言う恋人と別れて、憧れの東京にやって来た女性の物語・・・【山椒読書論(639)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年12月23日号】 山椒読書論(639)

コミックス『人間交差点(20)――薄彩』(矢島正雄作、弘兼憲史画、小学館)に収められている「白夜」は、地元の漁師の生活がいいという恋人と別れて、憧れの東京にやって来た漁師の娘の物語である。

一緒に東京へ行こうと誘われた恋人の言葉。「冗談じゃねえよ、バカヤロウ! 海があるだろう。船があるだろう。魚がいてメシが食えるだろう。それ以上のどんな幸福があるって言うの!?」。

「買うものがいっぱいあれば、仕事するじゃない。色々な人とも会うだろうし、いっぱい必要なものが出来てくる。ここにいるより何人分もの色々な経験するだろうし、豊かな人生送れるのよ」。

「私は与えられたチャンスと戦いながら、一度しかない私の人生という舞台を、私にしか出来ない演出をして仕上げていく・・・」。「沢山の出会いは、沢山の別れを私に教えてくれる。私はその度に人間的にも成長して、大きな人間になっていく・・・」。

公園のベンチで、餌をもらおうと寄ってくる猫たちに語りかける。「ごめんね、もうお金ないんだよね。会社クビになっちゃってるし、アパートは追い出されちゃったし・・・カードで買った家具も服も持ってかれちゃったし、身軽でいいけどね。私、昨日寝たかな・・・忘れちゃったな。よかったな、一人で出て来て・・・夢見れるもん。海で暮らしているあの人のこと夢見れるもん・・・」。

女性はベンチにぐったりと横たわり、夢を見ながら・・・。

幸せな人生とは何かを考えさせられる作品である。