大学で同級生だったエリート外交官と、根っからの自由人――その人生は・・・ ・・・【山椒読書論(648)】
【読書クラブ 本好きですか? 2022年1月1日号】
山椒読書論(648)
コミックス『人間交差点(27)――台風の吹く日』(矢島正雄作、弘兼憲史画、小学館)に収められている「なれの果て」は、人生とは何かを考えさせられる作品である。
三崎と根岸は大学の同級生である。「奴(根岸)は毎日、踊るように生きていた。誰だって楽しいことだけをしている毎日が過ごせたら、いいにきまっている。だが、そういう生き方には必ず破局が来る・・・」。外交官試験に没頭する三崎に愛想を尽かした恋人は、根岸と結婚してしまう。
三崎は卒業と同時に外務省に入り、財閥の令嬢と見合い結婚する。「人間には堕ちていく人間と、昇っていく人間しかいないということを実感した。奴は、重石を抱いて川底へ・・・。俺は陽のあたる水面に・・・」。
あと半年で帰国できるという時になって難問に直面した三崎は、現地で、この国の事情に通じている根岸に助けられる。「ええ、根岸さんです。この国では本当に困っている人間も、本当に頑張っている人間も彼は良く知っています」。
お礼に食事をと誘った三崎は、逆に根岸の家の食事に招かれる。「想像していた通りの『なれの果て』の二人だった・・しかし二人は心から笑っていた」。
食事を終え、待たせておいた車の所まで歩きながら、「俺(根岸)はいつも、たった今のことしか考えられない馬鹿野郎で、おまえ(三崎)は将来しか考えられない利口者だ。だけど最後の帳尻は同じだ。お互いに、いつかはくたばる。同じ『なれの果て』になるってわけだ」。