夫婦の会話は大切だけど・・・ ・・・【山椒読書論(655)】
気分がとげとげしくなっていると自覚したときは、書斎の書棚からコミックス『たんぽぽさんの詩(うた)――ほのぼの家族まんが(3)』(西岸良平著、祥伝社)を引っ張り出してくる。
主人公は駆け出しのイラストレイターのたんぽぽさん、夫の慎平ちゃんはカメラマンの卵。それに、可愛い一人娘のスミレちゃん、家族になり切っているネコのトラという顔触れ。彼らが、さまざまな騒ぎを引き起こすが、西岸(さいがん)良平の独特な筆致が、ほのぼのとした雰囲気を醸し出している。
例えば、「夫婦の会話」は、こんなふうに展開する。
たんぽぽさんが隣の奥さんを招いてお茶を楽しんでいるところに、慎平ちゃんが帰宅する。「あーあ、まいった、まいった」。「どうしたの? 慎平ちゃん」。「わざわざ雪山に登って撮ったポスター用の写真、スポンサーが文句つけて没になったんだ」。「あら、ひどいわね。あの写真、よく撮れていたのに。まっ、あんまりガッカリしないでね。私もイラストの仕事しててしょっちゅう描き直しさせられているじゃないの。向こうの見る目がないんだから・・・」。
「お二人を見てると、なんでも話し合えて、うらやましいワァ。うちの主人なんかフロ、メシ、ネル以外の言葉を知らないみたいなのよー。うちも今日からもっと夫婦の会話をしてみようかしら」。
隣の奥さんが自宅で、「ねえ、あーた、うちももっと夫婦の会話を楽しもうと思うのよね。ねぇ、聞いてよ、あーた」。夕刊を見ながら夫が、「わかったよ。夫婦の会話だろ。何を話せばいいんだ!?」。「なんだっていいのよ。話したいことがあったら、なんでも話し合えるようにしたいの」。「フーン、いいたいことをいえばいいのか」。
「それじゃ、いうけどな」と、妻に対する不満が次から次へと出てくる。ムカーッとなった妻も負けずに言い返す。
最後の一齣。翌朝、フン、フンと顔を背け合う隣の夫婦を見て、「なんだか、かえって険悪になったみたいね」。「夫婦の会話が悪かったのかなあ」。
企業人時代の私も、落ち込んだときは、女房によく慰められたなあ。