西岸良平の漫画は、ほのぼのとしてくるなあ・・・【山椒読書論(656)】
気分がとげとげしくなっていると自覚したときは、書斎の書棚からコミックス『たんぽぽさんの詩(うた)――ほのぼの家族まんが(4)』(西岸良平著、祥伝社)を引っ張り出してくる。
主人公は駆け出しのイラストレイターのたんぽぽさん、夫の慎平ちゃんはカメラマンの卵。それに、可愛い一人娘のスミレちゃん、家族になり切っているネコのトラという顔触れ。彼らが、さまざまな騒ぎを引き起こすが、西岸(さいがん)良平の独特な筆致が、ほのぼのとした雰囲気を醸し出している。
例えば、「夫婦の財産」は、こんなふうに展開する。
「慎平ちゃん、何見てるの?」。「カメラのレンズのカタログさ。もっと遠くが撮れる望遠レンズがほしいんだけど・・・。高いし、どうしても必要だというわけじゃないから迷ってるんだ。今は小さいレンズで撮って、引き延ばしでごまかしてるけど、やっぱり写真の出来は悪いからなあ・・・」。「ほしいんだったら買えばいいじゃないの。商売道具なんだもの」。「ハハハ、でもこのところ、ちょっと赤字だから・・・」。「いいのよ、遠慮しなくても。慎平ちゃんには、うんといい写真を撮ってもらいたいもの」。
この日、たんぽぽさんは、最近離婚した、離婚問題の本をいっぱい出している女性弁護士の朝吹幸代に取材する。夫婦でサイフは一つなんて、とんでもないと言われてしまう。「あら、それなら大丈夫です。うちは絶対、離婚なんかしませんから」。「あなたね、離婚するつもりで結婚する人はいないのよ。先のことはわからないでしょ。夫の浮気だってあるし」。「愛し合ってますから絶対大丈夫です」。「まあ、すごい自信だこと」。
最後の一齣。取材を終えて一人になった朝吹の台詞。「あーあ、うらやましい・・・。ずっと昔、私にもあんなころがあったわねえ・・・」。
西岸作品は、ほのぼのとしてくるなあ。