最後に辿り着いた真相は、私の想像力を遥かに超えるものであった・・・【山椒読書論(676)】
【読書クラブ 本好きですか? 2022年3月7日号】
山椒読書論(676)
『下弦の月に消えた女』(瞬那浩人著、セルバ出版)を一気に読み終えた今も、著者が構築した異世界から抜け出せないでいる。これは、古今東西の優れた推理小説の読後感と共通している。
フィリップ・マウロウに憧れながらも、大きな差があることを自覚している私立探偵・竜崎隼は、小堀和也という青年から失踪した恋人・秋元優子の行方を捜してほしいと依頼される。
最初は単純な人捜しと思われたが、優子のヴェイルに包まれた過去と謎の行動に戸惑わされる。クラブ・ホステス時代の優子の客だった業績急上昇中の企業の社長・中西英孝と夫人の麻里恵、麻里恵が特別室に長期入院していた清安真病院の院長・谷原耕造、心臓外科医の高野史幸、脳神経科医の竹内亮、ストーカー殺人犯として逮捕された近藤直哉といった人物が入り乱れ、竜崎が襲われたり、小堀が記憶を喪失したりと、ますます謎は深まっていく。
推理小説や洋楽に妙に詳しかったり、「v」を「ヴ」と発音したり、「クレーム」は和製英語で、正しい英語は「コムプレイント」だと拘るなど、竜崎は個性的で味がある。
巧みな物語展開にぐいぐいと引きずり込まれ、最後に辿り着いた真相は、最先端のIT技術、医療技術に関連しており、私の想像力を遥かに超えるものであった。