榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

生物の世界は、想像以上に奥が深いぜ!・・・【山椒読書論(740)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年9月9日号】 山椒読書論(740)

へんてこな生き物――世界のふしぎを巡る旅(カラー版)』(川端裕人著、中公新書ラクレ)で、とりわけ興味深いのは、ストロマトライト、サバクトビバッタ、イワサキクサゼミとクロイワゼミ――の3つである。

●ストロマトライト――錆びた海の生物礁
「(ストロマトライトを形作った)微生物とは、光合成をする最古の生物、シアノバクテリア(藍藻類)である。藍藻類は、初期の地球大気にほとんど含まれていなかった酸素を大量生産し、現在の0.2気圧という水準にまで引き上げた立役者だと考えられている」。

「まだ魚もいなかった太古の海を想像してみる。浅瀬には一面のストロマトライト礁が発達し、波に洗われながら、ただひたすら粛々と酸素を生産しただろう。・・・赤く錆びて、魚もいない海に広がる、ストロマトライト礁のイメージは、頭に思い浮かべるとかなり鮮烈である。さて、そんなストロマトライト礁は、藍藻類を食べてしまう動物が多く登場するようになって姿を消したと思われていた。しかし、実は環境さえ整えば、今でもストロマトライトが形成されることがある」。

●サバクトビバッタ――金のバッタが実った穂
「サバクトビバッタは、日本でいえばトノサマバッタに似た姿のバッタ科のバッタである。・・・普段は『孤独相』といって文字通り孤独に生きているのに、何かのきっかけで相変異して『群生相』になると、巨大な群れを形作って手がつけられなくなる。現在も、国際連合食糧農業機関(FAO)がサバクトビバッタ対策専門チームを編成しており、常時、発生状況をモニタリングしたり、関係各国での防除のトレーニングプログラムを普及させるなどしているが、被害をなくすには程遠い」。

「前野(ウルド浩太郎)さんは、野生のフィールドでの研究と、ラボでの研究の両サイドから探究して、このやっかいな昆虫の謎を解明した上で、対策に寄与したいと願っている。抱腹絶倒のエピソードに満ちた研究の様子は、『孤独なバッタが群れるとき――サバクトビバッタの相変異と大発生』(東海大学出版会)、『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)などで読むことができる。・・・もっと目を惹く(前野さんの)論文が出た。この論文は一連の発見から、防除のためのひとつのオプションを提案するものだ。その発見とは、『群生相のサバクトビバッタは、オスとメスが別々に集まっている』こと、メスは約6日おきに産卵するが『産卵直前のメスだけがオスの集団に多数飛来し、一晩のうちに交尾、産卵を済ませる』こと、『交尾と産卵中には、オスはメスの背中に乗ってしがみつくため、メスは飛んで逃げることができず、無防備な数時間を過ごす』こと、という3点だ。とすれば、雌雄の群れが一緒になって、交尾が始まったあたりは、防除の絶交のタイミングではないか、と前野さんは示していた。サバクトビバッタの成虫は飛ぶことができるので、成虫の群れを見つけてもすぐに逃げられてしまうのだという」。

●イワサキクサゼミ、クロイワゼミ――日本一小さいセミ、美しいセミ
「イワサキクサゼミだ。その名の通りセミなのだが、最初はセミとは思えなかった。指の爪ほどの極小サイズで、遠目には大きなハエだと思う人がいるかもしれない。それらが、ススキの葉に連なるようにくっついていた。日本一、小さいセミだそうで、沖縄本島と宮古島、石垣島、西表島、台湾などに生息する。日本国内で最も早い時期に鳴きはじめるセミでもあって、『四季折々』の中でも特筆すべき生き物かもしれない。翅は透明だが、翅脈がメタリックな緑で格好いい」。

「イワサキクサゼミほどではないにしても、クロイワゼミもかなり小さなセミなのである。『毎年、必ず、見に来るんですけど、単純にきれいだからなんですよね』と仲間の一人が言った。それはたしかに小さな緑糸の宝石のように輝いていた。こんな色のセミは見たことがないし、他の昆虫でもなかなか見ない、独特な質感で少し蛍光が入ったような鮮やかな緑だった」。

生物好きには堪らない一冊である。