榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

君は「高齢期は終わりの始まり」と思い込んでいないか・・・【山椒読書論(813)】

【月に3冊以上は本を読む読書好きが集う会 2023年12月22日号】 山椒読書論(813)

高齢期は終わりの始まりと思い込んでいる人に薦めたい本がある。退職後の1年間をブログに綴った66歳の男のエッセイ集『LINEブログに綴った「65歳の歩き方」』(相川浩之著、ジャーナリストの魂出版)がそれだ。「本書は、最初は途方に暮れていた65歳になったばかりの男が試行錯誤を経て、『何でも前向きに楽しめばいいんだ』と、気づくまでの1年余りを綴ったブログを再構成したものだ。楽しみは趣味や仕事に限らない。介護でさえ楽しみにできる」。

「65歳は、『終わりの始まり』などではなく、やりたいことに好きなだけ時間をかけられる『自由な暮らしの始まり』だった。どこにも所属せず、何をしても何もしなくてもいい自由を得て、『今日は何をしよう』と考えるだけで毎日が楽しかった」。

著者夫妻は妻の94歳の母を自宅で介護している。「家族介護は大変だが、幸い、医療、介護でサポートしてくれる良いチームができた。母には最期まで笑顔で過ごしてもらいたい。介護は大変だが、母をケアするのは大事なライフイベント。楽しんで介護に取り組みたい」。この心意気に拍手!

著者は旧交を温めることを楽しんでいる。「退職したら、まずは、旧交を温めたい。できれば、これからやりたいことが何も決まっていない時に、旧友と語り合いたい。ただ、『懐かしいから』『楽しそうだから』会う」。

「退職したら『昼間から蕎麦屋で一杯』をやってみたかった。T君と11時過ぎに待ち合わせ、神田まつやへ。焼きのり、わさびかまぼこ、じゃこ天、そばがき、天種などを頼んで、ノンアルコールビール(最近は本当のビールを飲むとすぐに酔ってしまうので)を飲みながら、ゆっくり楽しむ。これだよ、味わいたかった気分は」。人々が働いている昼間に飲むという軽い罪悪感を楽しむのは、まさに高齢者の特権だ。

著者は自分で作った出版社から自分の本を出すという冒険に乗り出している。「流通経済部、社会部、生活情報部・・・。日経で取り組んできた仕事の多くが社会や生活に関わることだったから、(退職後は『生活ジャーナリスト』で行こうかと思ったのは)不自然ではなかった。けれども、『生活』に限らず、『ジャーナリスト』として、ジャンルを問わず書きたいことを書き、自分で作った出版社で、誰に忖度することもなく本を出すと決め、走り出した。いろいろな人たちと会い、触発されて、そうなった」。自分の夢に果敢に挑戦する行動力に脱帽!

「S君にとって、老後は『夢を実現する時間』」。

「2014年に出した『心が自由になる働き方』(かんき出版)を読むと、彼(中学時代の友人・大沢幸弘)の生き方がよくわかる。この本の中で、大沢君は、『なぜか明るく元気で、少々のことでは<めげずに折れない>で、仕事の結果を出している人』の共通点を挙げている。『会社に雇われているサラリーマンでありながら、仕事の取り組み方が、まるで勤務先の会社から業務委託を受けている仮想会社のオーナーのような感覚の持ち主』ばかりだという。『勤めているのに、<自分の勤務先&上司>を顧客(クライアント)のように捉え、つねに満足させるよう行動』するというのだ。この距離感を会社勤めの時に持てれば、会社や上司の悪口や愚痴などは言わず、自分の責任で仕事ができる人間になれると思った」。この件(くだり)を読んだら、『心が自由になる働き方』を無性に読みたくなった。なぜなら、私もサラリーマン時代は大沢と同じ考えで仕事をしてきたからだ。違うのは、悪口や愚痴を言いながらという点である。

「高齢者も学習し成長する」。