知的人気者たちを滅多斬りの、スカッとする一冊・・・【山椒読書論(821)】
【読書の森 2024年10月3日号】
山椒読書論(821)
『ソクラテスよ、哲学は悪妻に訊け』(池田晶子著、新潮文庫)には、少しがっかりした。ソクラテスと、その悪妻として有名なクサンチッペのエピソードが書かれているものと、私が勝手に勘違いしていたからだ。ところが、違う意味で、この本は思いがけない拾い物であった。
なぜなら、池田晶子という哲学者が、ソクラテスとクサンチッペの対話という形を借りて、現代の知的人気者たちを俎上に載せ、縦横無尽に、かつ遠慮会釈なく論評しているからである。
『<戦前>の思考』の柄谷行人などは、「わかってないねえ、柄谷君」と滅多斬りにされている。ソクラテスが、「柄谷君は、これ(小林秀雄の発言)に対して、<「歴史の美しさ」という言葉を使っていることに注意して下さい>と、こう来るわけなんだ。僕は何かこう、がっくりと萎えるものを覚えるよ、この手のものの言い方とか、ものの考え方とかに接するたびにね。まあ要するに素直じゃないんだなあ。自分で自分の考え方に疲れちまうんじゃないかと、僕は心配だ」と嘆いている。
『ソフィーの世界』のヨースタイン・ゴルデルなんて、「ソフィーの馬鹿」と切り捨てられているし、『私の岩波物語』の山本夏彦、論文「文明の衝突――再現した『西欧』対『非西欧』の構図」のサミュエル・ハンチントン、『大往生』の永六輔、『戦争論』の西部邁、ノーベル賞受賞講演「あいまいな日本の私」の大江健三郎、『臨死体験』の立花隆も手玉に取られている。
しかし、全部が全部、ソクラテス(=著者)の言い分に賛成というわけではなく、養老孟司、西田幾多郎、スピノザ、映画『シンドラーのリスト』などに対する高評価・低評価には、ちと賛成しかねるなあ。
何はともあれ、スカッとする小気味よい一冊だ。