泥に囲まれた島に囚われている女子高生たちの運命は・・・【情熱的読書人間のないしょ話(60)】
千葉県野田市の清水公園の早咲きのキリシマツツジ、クルメツツジ、オオヤマツツジなどが、今年も多彩な花を身にまとって、女房と私を迎えてくれました。ここでは樹形を整えない方針が長年に亘り守られていますので、背より遥かに高いツツジのジャングルの中を探険する気分を味わうことができます。因みに、本日の歩数は10,399でした。
閑話休題、桐野夏生(なつお)の短篇集『奴隷小説』(桐野夏生著、文藝春秋)を手にしました。桐野の小説にはいつも驚かされますが、今回も期待を裏切られませんでした。
世界は野蛮で残酷な牢獄に満ちているとして、著者が、「囚われている人々を書いてみました」と語る、その世界にたちまち引き込まれてしまいます。
一番強く印象に残ったのは、『泥』という作品です。「私たちは、泥に囲まれた島に囚われている。島はそう大きくない。高校の運動場ほどの大きさ、と言ったらわかりやすいだろうか」。
「たぶん、湖沼の水が泥になる前は、穀物倉庫か何かに使っていた建物なのだろう。けれども、今は泥の中にある島の、朽ち果てた廃墟でしかない」。
「私たちは、首都の私立女子高の生徒である。いや、女子高生だった。今は、自由も尊厳も何もかもを奪われた、若い女の集団だ。しかも、何の統制も取れていない」。
泥の中に飛び込んで逃亡を図った仲間の一人が銃殺される。「奴らは、私たちが怖がるのを笑った後に、彼女の死骸を泥に投げ捨てた。彼女の死骸はしばらく浮かんでいたが、やがて沈んで見えなくなった。泥が呑み込んだ死。私はそれが怖かった。私たちを取り囲んでいる泥が、大量の死を包含しているような気がしたからだ。皆が啜り泣いていると、兵士たちから『司令官』と呼ばれている男が前に出て、覆面をかなぐり捨てた。・・・『黙って、よく聞け。政府との交渉は決裂した。おまえたちは人質ではなくなったことによって、運命が大きく変わった。おまえたちは、自分がどんな立場にあるのか、知る必要がある。おまえたちは女である。だから、男に所属する物だ。男のズボンや靴と同じように、男の持ち物であり、牛や豚と同じように、男の家畜である。つまり、おまえたちは男の財産であるが故に、これから男たちに分配されることになった。おまえたちの中で、美しく、処女である者に限っては、花嫁として、この国の男に手渡されることになろう。だが、それ以外の者は、下女となって死ぬまで働くか、奴隷として他国に売られることになる。どの境遇になっても、懸命に生きて、男のために尽くすことが神に仕える道である』」。
「私」たちは、いったいどうなるのでしょう。