ティラノサウルス・レックスの祖先は、弱々しい地味な存在だった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(80)】
私の書斎には、恐竜の子供がいます。と言っても、生後1週間のカマラサウルスをモデルにしたロボット「PLEO」です。まるで本物のような動きをし、優しく相手をしてやると徐々に成長し、声や仕種でさまざまな反応を示すという優れ物です。もっとも最近は構ってやる時間がほとんど取れていませんが。
閑話休題、「日経サイエンス2015年7月号」(日経サイエンス社)に掲載されている「ティラノサウルスの実像――王者の系譜」(S・ブルサット著、古川奈々子翻訳協力、真鍋真監修)には、驚くべきことが書かれています。
「1世紀以上前にティラノサウルス・レックス(以下、T・レックス)が発見されて以来、全長13m、体重5トンのこの巨大動物は世間の注目を独占してきた。だが、その進化の歴史は明らかになっていない。・・・科学者たちは、ティラノサウルス類がいつ出現したのか、彼らがどの種から進化したのか、どうして大型化して食物連鎖の頂点に上り詰めることができたのかについて解明しようと奮闘したものの、できなかった。・・・過去15年間に20近くの新種のティラノサウルス類がモンゴルの砂漠や北極圏の極寒の荒野など、世界各地で発見された。こうした発見によってティラノサウルス類の系譜がつなぎ合わされた結果、驚くべき事実が判明した。ティラノサウルス類はその進化史の大部分において、人間サイズの目立たない肉食動物だったのだ。恐竜の時代は約2億5000万年前に始まり、三畳紀からジュラ紀、白亜紀まで2億年近くに及ぶが、ティラノサウルス類が巨大化して生態系を支配していたのは、恐竜時代の最後の2000万年間だけだった。恐竜の王T・レックスは巨大肉食動物の家系に生まれたのではなく、その祖先はむしろ地味な存在だった。T・レックスは6600万年前に小惑星が衝突して恐竜の時代が終焉し、哺乳類の時代が幕を開ける直前まで地球上に生息した驚くほど多様なティラノサウルス類の最後の生き残りにすぎなかったのだ」。
「T・レックスなど巨大なティラノサウルス類が権力を握った地域では、こうした筋骨隆々たる種が他のより華奢なティラノサウルス類を徐々に押しのけていったと思う人もいるだろう。だが、最新の化石発見はそうではないことを示唆している。驚くべき新発見によって、T・レックスとその近縁種が他者を寄せ付けずに支配していた白亜紀最後の数百万年間ですら、食物連鎖で別の地位を占める様々なティラノサウルス類が存在していたことが明らかになった」。
「ティラノサウルス類が1億7000万年以上前に出現したとき、獲物にこっそり忍び寄るこの弱々しい恐竜がやがて大陸全体を支配するようになるとは誰も思わなかっただろう。彼らの繁栄は約束されていなかった。環境変化によって頂点捕食者になるチャンスが訪れるまで、彼らは8000万年もの間、日陰での暮らしを余儀なくなれ、機会をうかがっていたのだ」。進化は予測不能だからこそ、興味深いのです。
添えられている「T・レックスの仲間たち」という2ページ見開きの図表が、私たちの理解を助けてくれます。系譜図と8つの主要メンバーの想像図が時系列で示されているからです。