榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

憧れのブータンで、高齢者健診プロジェクトを立ち上げた医師・・・【情熱的読書人間のないしょ話(81)】

【amazon 『ブータンの小さな診療所』 カスタマーレビュー 2015年5月31日】 情熱的読書人間のないしょ話(81)

「あのピンクの花は何かしら?」と、散策の途中で女房が指差した先に咲いていたのは、何とピンクのヤマボウシでした。ヤマボウシの花(正しくは総苞)は白色と思い込んでいた私もびっくりしました。しかもピンクと白のヤマボウシが寄り添うように並んで咲いているのです。因みに、本日の歩数は17,035でした。

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閑話休題、『ブータンの小さな診療所』(坂本龍太著、ナカニシヤ出版)は、憧れの国・ブータン王国の東の外れの地方で、半年間に亘り、地域に根差した高齢者健診プロジェクトを推進した日本人医師・坂本龍太の手になるフィールド医学の記録です。

「ブータンにはブータンの事情があり、日本で行っている健診をそのまま導入するのではなくブータンの実情に即した方法で行う必要があるということになるだろう。そこで、最新の知見を参照しながら保健省と項目について議論を重ねた。そして、高齢者で重要な生活機能障害、高血圧、糖尿病、るいそうあるいは肥満を含む栄養状態、認知症、うつ、アルコール依存、視力障害、聴力障害、転倒リスク、尿失禁、歯科的な問題、孤立の13個の項目に重点を置くことにした」。

健診を巡る興味深いエピソードがいろいろ紹介されていますが、「医者と毒を吸う男」がとりわけ印象に残りました。「そもそも病院を訪れる多くの患者は医者が何もしなくても、時間の経過と共に症状が去ってしまう。世界中で最高の名医は『時間』なのではないかと思うこともある。・・・(ブータンの)ドゥクラハン(毒を吸う男)は、多くの病気が時間がたてば治ってしまうという事実とプラセボ効果をうまく利用する術に長けているのかもしれない。ブータンで医者の数は限られており、病院や診療所へのアクセスの問題もあって、道路から遠く離れた村では診療を受けたくても難しい場合も多い。でも、患者さん自身や苦しそうな患者のそばにいる家族や隣人は何かをせずにはおれない。そこで行うのが、祈ることであり、ドゥクラハンを呼ぶことなのかもしれない。ドゥクラハンが何か施術をしてくれることによって患者さんは治る気になれるのかもしれないし、周りも気が休まるのかもしれない。ドゥクラハンの側に立ってみれば、彼らの中で自分自身が行う施術の効果に疑問を感じている方もきっといるはずである。しかし、先人たちによって代々受け継がれてきた施術であり、村人からの期待もある。重症患者から呼ばれると不安でいっぱいだが、『行きたくない。俺はドゥクラハンなんてもうやめた』などとは言いたくても言えないのかもしれない。患者さんを目の前に、不安を抱えながらもベストを尽くしたいと思い、自分のできる施術を行う。願う気持ちは、ドゥクラハンも我々も同じなのではないか。『どうかよくなりますように』」。

著者のように、自分のやりたいことは、あれこれ迷わずに、即実行する人間に共感を覚えます。しかも、この高齢者健診プロジェクトはブータン保健省に引き継がれ、国家全土に段階的に広げていくというのですから、著者は素晴らしい一粒の種を蒔いたことになります。自分のやりたいことは何だろうか、と考えさせられる一冊です。