民主的なヴァイマル憲法下のドイツで、ヒトラーが成功したのはなぜか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(146)】
散策中に、ゴーヤーがたくさんぶら下がっている棚を見かけました。黄色いゴーヤーは初めてなので、興味を惹かれたのです。熟すと緑色から黄変するとのことで、これらは採種用です。市場に出荷するためか、ビニールが被せられています。
閑話休題、1933年に、当時、最も民主的なヴァイマル憲法を有していたドイツで、最も独裁的なヒトラーという人物が政権を握り、傍若無人に振る舞うことができたのはなぜかが気になり、書棚から『ワイマル共和国――ヒトラーを出現させたもの』(林健太郎著、中公新書)を引っ張り出してきました。
「彼ら(ドイツ社会民主党)はナチスというまったく新しい右翼政党の持つ徹底した悪魔的性格に気づいていなかった。ナチスのような無道なものが永続するはずはない。何となれば、それはあまりに不合理なものであるから・・・。現代大衆社会の政治運動においていかに非合理的要素が大きな役割を演ずるか、それは眼前に展開された事実であったが、その教訓を学ぶ心の用意は彼らには全然存在しなかったのである。・・・ドイツにおいて最強の組織を誇り、最大の人数をその傘下に糾合している社会民主党が政府の一片の命令に対して何らの抵抗も行なわなかったことは、ヒトラーに対し、政権を掌握しさえすれば何ごとでもなし得るという確信を与えたことは疑い得ないであろう」。
ヴァイマル共和国崩壊の原因が、さまざまな角度から考察されています。「ドイツ国民はビスマルク以来、官僚の支配に馴れており、みずからが国家を形づくるという意識と慣行に欠けていた。その彼らが敗戦によって突然、民主主義と政党政治という新しい実践を課せられたとき、彼らはそれをいかに駆使するかに迷った。そして政党政治がいたずらに混乱をもたらしたように見えたとき、彼らは彼らの手にゆだねられた共和国をむしろ重荷と感ずるようになり、上からの強力な支配に救いを求める人々が増えたのである。・・・国民の不満を最高度に刺激しながらその解決をもっぱら外国、外来思想および異人種の排撃に求めるナチスが国民の異常な人気を博する理由があった。・・・ナチスはひとたび勝利を収めると、近代社会の基本原理をも社会の伝統的秩序をもまったく無視する暴力支配を確立したのである。ナチスを支持した多くの人々が彼らの悪魔的性格を見誤っていたというのは事実であろう。ドイツ国民はたしかに権威服従的ではあったが、決してすべてが無法者を好んでいたわけではないからである。しかし彼らは目前の苦境に追われて、社会と人間の存立のために最も重要なものが何であるかを認識することを忘れた。そしてそれを破壊するものが民主主義の制度を悪用してその力を伸ばそうとする時には、あらゆる手段をもってそれと闘わねばならぬということを知らなかった。それがヒトラーを成功させた最大の原因である」。
最も平和的な日本国憲法を有している日本で、たった19人の大臣たちだけで憲法解釈を勝手に変更してしまうという事例を目にした私たちにとって、本書は必読の一冊です。何ら有効な手が打てない野党にやきもきするだけではなく、私たち一人ひとりが眼前の重要問題を、自分自身の問題とてしっかり考えることが必須なのです。