榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

地中に埋められた妻が甘美な果実に変身する、世にも不思議な物語・・・【情熱的読書人間のないしょ話(164)】

【amazon 『美しい果実』 カスタマーレビュー 2015年9月10日】 情熱的読書人間のないしょ話(164)

散策中に出会ったエノコログサの群落で、穂が一斉に揺れていました。そこから少し行った所で、キンエノコロを見つけました。エノコログサの穂は小首をかしげたように垂れていますが、キンエノコロは金色に輝く穂が直立しています。

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閑話休題、私は果物大好き人間ですので、毎日、いろいろな果物を楽しんでいますが、『美しい果実』(唐瓜直著、KADOKAWA)を読んでからは、果物を食べるたびに、この背筋がぞくぞくする小説を思い浮かべることになりそうです。

「結婚して5年目の夏、恵理が倒れた。新種の難病として女性に広まりつつあるという植物性皮膚硬化症候群だった。皮膚の硬化、頻発する立ちくらみ、昏睡状態へ。やがて静かに息を引き取る。苦しまないことだけが唯一の救いだった」。

不治の難病に侵され、昏睡状態に陥った愛する妻を、「俺」は彼女の遺言に従い、農園に埋めます。その農園では、同じように妻を埋めた男たちが大勢暮らしており、女性たちが熟して芳香を放つ甘美な果実に成長するよう丹念に世話を焼いているのです。これまで出会ったことのない不思議な物語が展開されていきます。

「俺は、妻を食べたのだ。これはただの果実ではなくて、植物のようになってしまい、果実になることを望み、そして俺の手で地中に埋められた恵理そのものだった。・・・恵理の望みは、これでよかったのだろうか。彼女は俺に食べられるために、果実になりたいと言葉を残したのだろうか」。