榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

世界には、殺気漲る全面開放便所も存在するのだ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(251)】

【amazon 『奇食珍食 糞便録』 カスタマーレビュー 2015年12月14日】 情熱的読書人間のないしょ話(251)

東京・銀座、築地辺りを散策すると、いろいろと面白いものに出会えます。ビルに隠れながら、何かを覗き見しているキューピッド、都内の各名所の写真が蝶の形に収まっている東京都交通局の大型ポスター、なぜか錆びた金網と錠で隔てられた地下への入り口、歌舞伎座の正面に高く積み上げられた酒樽(=積物<つみもの>)、三越のクリスマス・ツリーなどなど。伊東屋で、女房が気に入っている手帳の来年用を買い求めました。因みに、本日の歩数は13,992でした。

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閑話休題、『奇食珍食 糞便録』(椎名誠著、集英社新書)は、何とも奇妙奇天烈な本です。辺境探検をこよなく愛する椎名誠が、世界で巡り合った奇食・珍食とトイレについて言葉を飾らずストレートに語っているのです。

「モヨオシている人の殺気」の項は、こんなふうです。シルクロードの要衝であった楼蘭を目指す旅の途中に立ち寄ったミーランという大きなオアシスでの経験です。「宿には便所がなく、公厠(公衆便所)にいくのだが、これがなんと男女にひとつずつしかないのだ。男女は背中合わせになってちょっとした囲いがあるが、例によって前方には扉などない全面開放便所だ。・・・ひとつしかないから当然行列ができる。・・・自分の番がきたらその行列に向かってしゃがみ、大便をするのだ。行列をつくっている人はみんな『モヨオシている』人だ。全員焦っている気分が空気的圧力となってそのあたりに横溢している。『早くしろ』コールがいまにもわきおこりそうな不穏な状態のなかで、こっちは意志を強くして満足するまでやらなければならない。こういうときのコツは、行列の先頭のやつの顔を見ないことだ。先頭にいる者は次が自分の番なのだから、そのはやる気持ちがすでに殺気をともなっているのがわかる。ほんの数分前が自分だったのだからその気持ちはよくわかる。しかし、そんなやつのことは無視して、断固気のすむまでやらねばならない。これが鉄則だ」。ここまで読んで、思わず噴き出し、脇の女房に怪訝な顔をされてしまいました。

「あっぱれ! 天上天下開放のチベット」の項は、「中国の糞便ストロング話を続けてきたが、チベット自治区に入っていくと、また違った凄さがある」と書き出されていて、弥が上にも期待が昂まります。「開放便所であるのはかわりないが、チベットはもっとさらに『開放』してしまっている。どういうことかというと、例えば田舎の宿の便所などはたいてい屋根の上にある。屋上、というより日本的感覚でわかりやすくいうともの干し場の構造に近い。したがって天井も壁も、さらに凄いのは手すりもない。辛うじてへりに10センチぐらいの枠がある。標準型でいうと、そこにふたつの細長い穴があいていて、ふたつの穴の真ん中に男女のしきりの板がある。といっても髙さ1メートル幅2メートルぐらいのものだから、男女の便所のしきりというには相当におおらかだ。しかもその便所が往来のすぐ上に位置していたりするから、その上に立つと、その人がこれから大便なんぞをするのだ、ということが丸わかりである。そんなのやだわやだわ。などと言っていたら、チベット奥地の旅なんか絶対できない。これはもう割り切っていくしかない。通りをいく人に向かって『さあわたしはこれからウンコをしますからね』と舞台挨拶のつもりになってヒラキナオリ、おもむろにしゃがむしかない。・・・男女のしきりがあまりにも貧弱なので、隣に女性がきたりすると、どうにも内心うろたえる思いで、そそくさと始末して出てきてしまうことになる。でも女性は強く、まったくこともなげなのだから恐れいる」。

このような話が満載なので、今後、気分が落ち込んだときに読み直したいと思います。