榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

自分も収容されているユダヤ人の一人のような錯覚を覚えさせる映画・・・【情熱的読書人間のないしょ話(390)】

【amazon DVD『サウルの息子』 カスタマーレビュー 2016年5月21日】 情熱的読書人間のないしょ話(390)

散策中に、母と子の微笑ましい像に出会いました。こういう作品を見ると、心が和らぎますね。チェリーセージ・ホットリップスの赤と白のツートン・カラーのかわいらしい花が咲いています。因みに、本日の歩数は10,492でした。

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閑話休題、映画『サウルの息子』(DVD『サウルの息子』<ネメシュ・ラースロー監督、ルーリグ・ゲーザ、モルナール・レヴェンテ出演、Happinet>)には、3つの点で激しい衝撃を受けました。

第1は、アウシュヴィッツ強制収容所で行われたホロコーストの惨たらしい実態が、私がこれまで見たホロコーストを扱った映画とは比べようもないほどリアルに描かれていること。主人公のサウルはハンガリー系ユダヤ人で、ナチスの命令の下、ゾンダーコマンドとして働いています。ゾンダーコマンドというのは、ユダヤ人同胞の死体処理に従事する集団のことです。

来る日も来る日も、裸にされた大勢のユダヤ人男女がサウルたちによってガス室に追い立てられていきます。施錠された扉を通して阿鼻叫喚の惨状が伝わってきます。その後、折り重なった死体を運び出し、次に送り込まれるユダヤ人たちに疑いを持たせぬよう床を清掃するのがサウルたちの仕事です。さらに死体を焼却場に運び、燃やすこと、その結果、生じた大量の灰を川に流すこともサウルたちの仕事です。

第2は、厳重な収容体制下に置かれていながら、囚人たちの間で密かに脱走計画が練られ、実行に移されたこと。これまで見た映画でアウシュヴィッツ収容所からの脱走計画が描かれたという例を知りません。

サウルはこの脱走計画には非協力的で、ガス室で辛うじて生き残ったものの、すぐに殺されてしまった自分の息子をユダヤ教の教義に則って地中に埋葬することに奔走します。ここで殺されたユダヤ人たちは積み重ねられて燃やされるのが常ですが、ユダヤ教では火葬は死者が復活できないとして禁じられているのです。

第3は、息子を正式に埋葬したいというサウルの強烈な思いと、それを実現すべく危険も顧みずに行動するサウルの姿が、多くの人の感動を呼んでいるのですが、私には素直に受け取れないこと。彼の息子への思いは理解できますが、それに固執するあまり、仲間たちの脱走計画に齟齬を生じさせたり、仲間たちを危険に陥れる可能性を一切考慮しないサウルの姿勢はどうしても納得できないのです。このような考え方をするのは私だけかもしれませんが。

普通の映画よりも小さな画面と、あたかもサウルの目を通して見ているようなカメラ・ワークが相俟って、見ている私たちに自分もザンダーコマンドの一員のような錯覚を覚えさせる迫真の作品です。