榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

日本歴史上の敗者25人に学ぶミニ評伝集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(476)】

【amazon 『敗者烈伝』 カスタマーレビュー 2016年8月7日】 情熱的読書人間のないしょ話(476)

あちこちで、夏祭りが開かれています。図書館では、ゴーヤーが見事な緑のカーテンを形作っています。我が家の庭にやって来たヤマトシジミをカメラに収めました。因みに、本日の歩数は10,021でした。

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閑話休題、『敗者烈伝』(伊東潤著、実業之日本社)は、日本歴史上の敗者25人の事例から教訓を学ぼうというミニ評伝集です。

もちろん、取り上げられた敗者たちの考え方、行動から教えられることが多いのですが、それとは別に、驚いたことがあります。源義経、高師直、太田道灌に対する著者の見方があまりにも意外なものだったからです。

「(源)頼朝の命に従い、その途次に(平)宗盛以下平家一門の生き残りを斬り、都に戻った(源)義経は、院近臣勢力や叔父の源行家と結び、頼朝に対抗していくつもりでいた。おそらく見通しとしては、畿内と西国に勢力圏を確立し、多くの兵を養ってから、奥州の藤原秀衡と共に鎌倉を挟撃し、頼朝を討つつもりでいたのだろう。ここまで来ると、『悲劇の主人公』どころか堂々たる謀反人である」。頼朝は政治的人間、義経は政治音痴という単純な構図は再考すべきかもしれません。

「(高)師直は、御家人の庶子層、非御家人、さらに悪党と呼ばれる農民上がりの新興武士層を積極的に引き入れ、独自の武士団を形成していった。その戦い方も、後の時代に太田道灌や北条早雲が創始し、織田信長が完成させた兵種別編制に近いものだった。なぜかと言えば、作戦という概念が未発達な南朝方に対し、師直は、方針や作戦が徹底された統一的な軍事行動を取っている形跡が見られるからである。・・・その行動から推察すると、師直は実力主義を第一とする人物で、伝統や権威を破壊することに何ら抵抗はなかったのではないかと思われる。武士階級の垣根を取り払い、誰でも武士になれ、実力次第で土地をも所有できることを知らしめたのは師直である。すなわち、荘園制を崩壊に導いた張本人こそ師直であり、こうした伝統や権威の破壊こそ、後の織田信長に先駆けるものだった」。師直がこれほど先進的な人物だったとは知りませんでした。

「いくら戦に強くても、自信過剰になって政治的配慮を欠いてしまうと、墓穴を掘ることになる。これは、信長や現代の成功した起業家にも通じる症状で、『相次ぐ成功』→『自信過剰』→『自己肥大化』→『無反省』という負のスパイラルに、道灌も陥ってしまったのである。(道灌)暗殺の直接要因は、相次ぐ勝利に増長した道灌が、主人の(上杉)定正や関東管領である(上杉)顕定の立場に対する配慮を欠いたことにあった。つまり二人を舐めて掛かったのである。・・・その結果、道灌は殺された。・・・『挫折なき成功の連続』こそ人生において最も恐ろしく、成功に溺れることなく自己を保ち続けることが、いかに難しいか、道灌の最期が、われわれに教えてくれている」。私の好きな道灌をここまで貶める論調には出会ったことがありません。

こういう見方もあり得るのかと驚くと同時に、勉強になりました。