榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ぼんやりとしていた「渡来人」のイメージがくっきりと・・・【情熱的読書人間のないしょ話(483)】

【amazon 『渡来人とは何者だったか』 カスタマーレビュー 2016年8月13日】 情熱的読書人間のないしょ話(483)

散策中に、今シーズン初めて、トノサマバッタに出会いました。緑色の葉の陰に緑色のショウリョウバッタがいるのが分かりますか? ハグロトンボたちがひらひらと飛び回っています。捕虫網を持った親子連れと行き合い、彼らが捕まえようとしている昆虫の名前や習性を教えてあげたところ、就学前の男の子と女の子から別れ際に「ありがとうございました」と丁寧に挨拶され、びっくりしました。因みに、本日の歩数は10,893でした。

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閑話休題、『渡来人とは何者だったか――その素性 渡航時期や規模 大和朝廷下での足跡・・・』(武光誠著、河出書房新社)のおかげで、私の頭の中でぼんやりとしていた「渡来人」のイメージを明確にすることができました。

この著者の執筆姿勢には好感が持てます。いろいろな学説があることを紹介した上で、自分はこう考えると自説を率直に提示し、その論拠を挙げているからです。そして、これ以上のことは史料がないのではっきりとしたことは言えないと、決して勇み足をしないのです。

「渡来人のなかでもっとも有力であったのが、飛鳥南部を本拠とした東漢(やまとのあや)氏である。蘇我氏の全盛期であった飛鳥時代前半以後の、この東漢氏の動きだけは、ある程度追うことができる。東漢氏に次ぐ勢力をもっていたのが、現在の京都市の西部にある太秦(うずまさ)を中心に繁栄した秦(はた)氏である。飛鳥時代以後の秦氏の動向も、おぼろげながらわかる。しかし、それ以外の渡来人と称した豪族たちの実態は、まったく明らかにできない。かれらは、きわめて断片的な形で文献に登場するのみなのである」。渡来人の代表として、東漢氏と秦氏に焦点を絞ったことが、本書の記述をすっきりとさせています。

東漢氏と秦氏の素性、すなわち彼らはどこの出身で、どういう階級に属していたのでしょうか。そして、いつ、どういう理由で日本に渡ってきたのでしょうか。著者は、雄略天皇の時代に、東漢氏、秦氏の先祖が伽耶(かや)から渡ってきたと考えています。「475年に高句麗が百済の漢城の地を奪ったために、百済が南方の弱い伽耶諸国に圧力をかけ始めた。高句麗に奪われた土地に代わるものを、伽耶から得ようと考えたのだ。これによって、伽耶に戦乱が広まったため、祖国に見切りをつけて、新天地に移り住もうと考える者も出てきた。この時代に、伽耶から陸続きの新羅に移住した者も、少なくあるまい。それとともにごく少数であったが、危険な航海に耐えて日本に渡る者もいた。・・・東漢氏と秦氏の先祖も、この時期に招きを受けて、職人たちを従えて来航したと考えられる。かれらは母国で中流豪族の地位にあったと推測されるが、私はその一行の人数は、この時代の日本の使者並みの50人、もしくはその倍の100人程度であったと推測している」。

「渡来系の技術は、5世紀末以後になって、東漢氏の本拠である飛鳥南部に広がり始めた。この点から見て、東漢氏の渡来は5世紀末ごろだったと考えるのが妥当ではあるまいか」。「日本古代史の研究者の多くは、『東漢』の『漢(あや)』は、伽耶の小国のなかで日本と親しかった『安羅(あら)=安耶(あや)』の国名を表すと考えている。ゆえに安羅から渡って来た豪族が『安羅氏』、つまり『漢氏』と称したというのだ」。

「雄略天皇の治世の5世紀末に、東漢氏の初代にあたる都加使主(つかのおみ)と、かれの配下の人びとが桧前(現在の奈良県・明日香村の南部)に居住地を与えられたのは事実と認めてよい」。都加使主は、伽耶のさまざまな先進技術を有する職人たちを連れてきたのです。「東漢氏は、伽耶の進んだ農業技術ももっていた。そのため5世紀末から、東漢氏の指導によって飛鳥南部の農地が急速に増加する」。

そして、その後、「東漢氏は6世紀から7世紀なかばにかけて、蘇我氏と親密な関係を築き、蘇我氏と共に朝廷の一大勢力となっていた。この時期の東漢氏の主流の動きは、ある程度追うことができる」。

一方の秦氏については、どうなのでしょう。「私は、秦氏は東漢氏と同じ時期、つまり雄略天皇の時代にあたる5世紀末に日本に移住してきて、朝廷に仕えるようになったと考えた。・・・秦氏は、伽耶のなかで日本と最も親しかった、金官(きんかん)伽耶国から来たのではあるまいか。これは一つの可能性を挙げたもので、確実な推理ではない」。

輪郭があやふやだった歴史上の出来事が、くっきりとした像を結ぶと、気分がすっきりします。これぞ、読書の醍醐味ですね。