ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気付いた妻の物語・・・【情熱的読書人間のないしょ話(487)】
先日、ヒグラシを写そうと、林の中で30分近く粘った時はカに10カ所以上刺されてしまい、結局、写真も撮れませんでした(涙)。今日は運よく、ツクツクボウシをカメラにばっちり収めることができました。因みに、本日の歩数は10,119でした。
閑話休題、『異類婚姻譚』(本谷有希子著、講談社)は、何とも不思議な物語です。「ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた」と始まるのですから。
子供もなく、職にも就かず、主婦としてどこかふわふわした「私」は初婚ですが、旦那は美しい妻との結婚に失敗した再婚者です。そして、「俺は家では何も考えたくない男だ」と宣言する、テレビやゲーム漬けのぐうたら夫です。
「よくよく注意してみると、旦那の顔は、臨機応変に変化しているのだった。人といる時は、体裁を保ってきちんと旦那の顔をしているのだが、私と二人だけになると気が緩むらしく、目や鼻の位置がなんだか適当に置かれたようになる」。
「ある日、久し振りにiPadから顔を上げた旦那と目が合った私は、もう少しで悲鳴をあげて部屋を飛び出すところだった。旦那の目鼻の位置が、大幅に崩れ始めている。別人というより、人の顔としてもはや正常な形を保てていなかった」。
「暗闇の中で旦那は、手早く私のパジャマの下だけを脱がせた。・・・絡まり合っている自分と旦那の皮膚の境目がいよいよ、ごっちゃになっていく。蛇になった旦那が口を開けて私を頭から呑み込み、私は旦那の粘膜の中で、必死にもがこうとするのだが、やがて旦那の体の中は気味が悪いまま、少しずつ気持ちのよい場所になっていく。気付けば私は自分から、せっせと旦那に体を食べさせてやっているのだった。旦那があまりに美味そうに私の体を呑み込むので、その味覚が自分にも伝染し、私は自分を味わっているような気分になった」。
この後、「私」と旦那に起こったことは、恐ろしいというか、あり得ないというか、訳が分からないというか、ともかく不思議なことの連続なので、ここに書き記すことはとてもできません。
本作品を読み終わった途端に、思わず、脇でパッチワークに取り組んでいる女房の顔を覗き込んでしまいました。私とは似ても似つかぬ顔でしたので、ホッとしました。