本書で、大村智の魅力の源泉が分かった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(515)】
緑に彩られた公園の奥で陶器市が開かれています。愛媛の窯元の作品と笑顔が気に入ったので、茶碗を2つ求めました。因みに、本日の歩数は10,765でした。
閑話休題、ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智(さとし)の新聞記事や、メディアとのやり取りを見て、好感を覚えていました。その人間的魅力の源泉に触れたくて、『人間の旬』(大村智著、毎日新聞出版)を手にしました。
「(ノーベル財団からの電話の)受話器を置いた時、真っ先に2000年9月1日に亡くなった家内の文子のことを思い出した。文子が健在ならどんなに喜ぶだろうか。若い頃から家内は『あなたは将来ノーベル賞をもらう人だから』とか言って、私をおだてて働かせてきた。研究者と一緒になりたいと言って結婚しただけあって、貧乏地代にも不平一つ言わずに家計を助ける内職から、親戚や研究者らとの付き合い、娘の教育のことまで、本当によくやってくれた。夜遅くまで研究室にいると夜食を差し入れに来たり、ついでに実験データの整理や計算まで手伝ってくれた」。
「大きな虫眼鏡を覗きながら本を読む姿は、一番深く心に刻まれた最晩年の父の思い出である。・・・私の一番古い記憶のなかですら、すでに読書をする若い父がいる。以来、90歳を過ぎても続いていたのである」。
「大学の一教職員であった私が最も充実した気持ちになれたのは、食い入るような目つきで聴いてくれる学生の前で、自分自身もまた緊張を感じながら講義を続けることができる時のことであった」。
「人間も知らない間に、直接、微生物の恩恵を受けている。高等学校の教科書にも出てくるリジン、トリプトファン、ロイシン、フェニルアラニン、アルギニンといったいわゆる必須アミノ酸は、人の体内ではつくれないからほかの生物の助けを借りなければならない。日常的には食物としても摂取しているが、多くは体重の2パーセントにもなる腸のなかの微生物(腸内細菌)によってつくられる。それを腸管から吸収し、発育や生きていくために機能するいろいろなたんぱく質をつくる」。
「知識と知恵は違いますよね。・・・知恵を出すために大事なことは、歴史に学ぶことです。歴史を勉強すると知恵が出てくる。・・・『教えるということは、ともに希望と夢を語ることだ』。こうありたいですね。『こうしたいね』『こういうふうに日本がなったら良いね』。こういうことを語り合いながらやっていくと、自然にそういう雰囲気が生まれてきます。知恵が生まれてくるわけです。と言っても、教育は知識と知恵のバランスですから、いろいろと勉強することももちろん必要です。知識がなくては、知恵は働きませんから・・・」。
本書を読み終わって、有言実行の人・大村をますます好きになってしまいました。