私は女子少年院の教官。仮退院した少女からの手紙が途絶えた。あなたなら、どうする?・・・【情熱的読書人間のないしょ話(642)】
夜の東京・神保町は、古書店が軒を並べ、本好きたちで賑わう昼の光景とは、大分様相が違って見えます。因みに、本日の歩数は12,173でした。
閑話休題、私の書斎は四面を本で囲まれていますが、一角を全巻揃いのコミックスたちが占めています。矢島正雄・弘兼憲史の『人間交差点(ヒューマンスクランブル)』、弘兼憲史の『課長 島耕作』『黄昏流星群』、横山光輝の『三国志』などは、私が呆けて堅い内容の本が読めなくなったときのために備蓄しているのです(笑)。
そうは言っても、現在も時折、引っ張り出しては楽しんでいます。
コミックス『人間交差点(ヒューマンスクランブル)(1)』(矢島正雄作、弘兼憲史画、小学館)には、人生の哀歓が込められています。
私は野崎洋平、34歳、ここK女子学院の教官をしている。菊島あけみは、私の教官生活の中で最も印象に残っている娘で、1年前、ここを仮退院していった少女である。
仮退院後も住所こそ何度か変わりつつも、月に1度は必ず頼りを寄越してくれていた。
ところが、3カ月前の、番地がぐちゃぐちゃと塗り消された手紙を最後に、頼りが途絶えた。
彼女を信じつつも、私の心の中には日増しに不安が募るばかりであった。
不幸な生い立ちの菊島は、荒れた生活を送り、窃盗、売春、覚醒剤使用等で女子少年院に送られてきたのだった。
女子少年院でも手に負えない少女であったが、私と心が通い合ってからは、まるで人間が変わったように真面目にここでの生活を送り、1年と2カ月で仮退院していった。
彼女から送られてきた最初の手紙。「我がままを言ったり、ひねくれたりしましたが、先生がとても好きでした。先生だけを頼って生活してきました。もうここへは二度と帰ってこないということと、大好きな先生に手紙を書くことを約束します」。
私は考え抜いた末に、やはり菊島を訪ねる決心をした。どんなことがあっても、菊島を女子少年院に戻してはいけない!――そう考えていたのである。
塗り消された番地を頼りに漸く辿り着いたのは、川崎のソープランド街であった。
私がそこで目撃した菊島は・・・。