蔑称の「ジプシー」でなく、自称の「ロマ」と呼ぼう・・・【情熱的読書人間のないしょ話(646)】
千葉・野田の「こうのとりの里」ではコウノトリの飼育と放鳥を行っています。放鳥したコウノトリが巣を作れるよう柱が立てられています。スズメが五線譜の音符のように並んでいます。ハス田に氷が張っています。綿屑のようなガマの実が風に揺れています。ハクサイが縛られている理由を尋ねたところ、農作業中の女性が、葉が広がらないようにしていると答えてくれました。そして、ダイコンを少し持っていくようにと言ってくれました。
閑話休題、『ロマ――「ジプシー」と呼ばないで』(金子マーティン著、影書房)は、ジプシーと呼ばれる人たちに対する私たちの偏見を正してくれます。
「自らの国家を持たず、世界中ほとんどの国々に離散するインド発祥の少数民族、ロマ民族は、断じて均一的な集団ではなく、各地で異なるロマニ語(民族語)の方言を使い、いくらか異なる旧慣を保持する雑多な下部集団によって構成されている」。
著者が本書を通じて訴えたいことは、3つに絞ることができます。
その第1は、蔑称の「ジプシー」でなく、自称である「ロマ」と呼んでほしいということ。
第2は、ロマ民族もユダヤ民族と同じように、ナチスから迫害された史実を知ってほしいということ。
「1942年、ドイツ国内のジプシー系住民は、ジプシー混血者も含めて、年齢・性別をとわず、全員逮捕のうえ、アウシュヴィッツに移送さるべし、という命令が下された」。「夜の点呼後、ジプシー家族収容所の居住バラックからの外出禁止令が発せられ、ジプシーたちのいるバラックを武装したナチス親衛隊員が包囲。トラックが横付けされ、ジプシーの男女および子ども2,897人をガス室へ連行。ガス殺後、ジプシーの死体は焼却炉横の溝で焼かれる」。
「『反ジプシー主義的』犯罪がくりかえされる背景として、ロマ民族もユダヤ民族もナチス体制下において『劣等民族』と同一視され、両民族が同等のナチス被害を被ったことが一般的にほとんど認識されていないことがある」。
第3は、現在も続いているロマ民族に対する偏見を改め、差別をなくしてほしいということ。
「ロマ民族を『物貰い』『盗人』『無教養』『不潔』な『放浪民』とする主張にいちいち反論する意味もないが、それらの概念は実際にロマと接した体験もない多数派国民の多くが21世紀になっても抱きつづける『ジプシー』イメージそのものである」。
「世界中で台頭する暴力的な『反ジプシー主義』とそれに誘発されて1990年代からはじまったロマ民族の3度目の大量移住・難民化・・・。殺傷事件さえ含むロマ民族の中世的な人権無視は、21世紀においても現在進行形の社会問題である」