本書のおかげで、よく分からなかった「バルカン」の全体像が見えてきた・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1748)】
メジロ、ツグミ、ヒヨドリ、キジバトをカメラに収めました。因みに、本日の歩数は10,116でした。
閑話休題、私にとり、長年、よく分からないままで過ごしてきてしまったのが、「バルカン」という地域です。『図説 バルカンの歴史(増補四訂新装版)』(柴宜弘著。河出書房新社・ふくろうの本)が、私の疑問を一挙に解決してくれました。
バルカンとは、どの地域を指しているのでしょうか。現在の地図でいうと、ルーマニア、ブルガリア、旧ユーゴスラヴィア諸国のクロアチア、セルビア、モンテネグロ、コソヴォ、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、北マケドニアとアルバニア、ギリシアの小国9ヵ国およびトルコのヨーロッパ部分から成っているそうです。総面積は日本の2倍、総人口は日本の半分とのことです。
バルカンは、どういう民族で構成されているのでしょうか。本書によれば、先住民族として知られているのは、ギリシア人、アルバニア人、ルーマニア人です。バルカン地域で最大多数を占める民族は南スラブです。南スラブは、旧ユーゴスラヴィアの主要民族であったセルビア人、クロアチア人、スロヴェニア人、モンテネグロ人、マケドニア人とブルガリア人であり、6世紀末までにそれぞれの地域に定住しました。このほか、バルカン地域には数多くの少数民族がいます。そのうち、ドイツ人、ヴラフ、ロマ(ジプシー)、ユダヤ人、アルメニア人の存在は重要です。さらに、このほかにも、改宗したムスリムやムスリム系の民族がいます。
「バルカンの歴史にとって、自然環境は大きな役割を果たしてきた。さまざまな民族がこの地域を行き交い、ここに定住したため、バルカンは民族構成の複雑な地域となった。これに伴い、バルカンにはいく種類もの文化が外部から持ち込まれ、各地に多様な文化圏が形成された。それぞれの文化圏は険しい山脈の存在によって隔絶されていたので、バルカンには時間を超えて、いくつもの文化圏が重曹をなして共時的に存在することになった。しかも、これら文化圏の境界線は民族の境界線とは一致しないだけでなく、人工的な線でしかない現在の国境線ともずれている」。
「バルカンの近代史から見えてくるのは民族、国家、国境、少数民族であり、それぞれの民族が作り上げた神話であり、それに基づく人々の集合的な記憶や強力なナショナリズムであろう。個別化の波のなかで、共通の政治風土や文化や人々の共通な生活はかき消されてしまう。しかし、憎悪の連鎖を断ち切るためには、バルカン地域に共通する歴史の認識こそが重要なのである」。
「ビザンツ帝国とバルカンの中世国家」→「オスマン帝国の支配」→「ナショナリズムの時代」→「民族国家の建国――対立と協調」→「危機の時代」→「多様な国家を求めて」→「ヨーロッパ統合のもと」と歴史を辿ることで、バルカンが抱える問題の原因が理解できました。
バルカンを知るのに、最適な一冊です。