榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

船の歴史を辿ることで、世界史を俯瞰する図説・・・【情熱的読書人間のないしょ話(667)】

【amazon 『図説 世界史を変えた50の船』 カスタマーレビュー 2017年2月10日】 情熱的読書人間のないしょ話(667)

50年前に、『ジョゼフ・フーシェ――ある政治的人間の肖像』(シュテファン・ツヴァイク著、高橋禎二・秋山英夫訳、岩波文庫)で、ナポレオンが恐れた男、ジョゼフ・フーシェを知って以来、フーシェは私にとって一番興味深い人物となり今日に至っています。外では変節と転身に長けたマキャヴェリストだった彼も、家庭にあっては、容姿に恵まれているとは言いかねる妻に大変優しい夫であり、かつ愛情の濃やかな父親であったと伝えられています。そういう多面的なフーシェはどういう顔をしていたのか関心を抱いてきたのですが、従来の見慣れた肖像画とは全く異なる肖像画を見つけました。

閑話休題、『図説 世界史を変えた50の船』(イアン・グラハム著、角敦子訳、原書房)では、世界史に大きな転換点をもたらした50の船が取り上げられています。「最初は小型で原始的だった船も、時の流れとともに大型化して大洋の航行が可能になった。それ以降人類の歴史と文化、文明は、船とその活用の仕方によって形づくられてきたのである」。

これらの船の中で、とりわけ興味深いのは、5つの船です。

第1は、鄭和の宝船(帆船)です。明の永楽帝の命を受け、巨大な船60隻以上を擁する艦隊を率いて遠征を指揮したのは、宦官出身の鄭和でした。この時代以降も、この宝艦隊が存続していたら、その後の列強による植民地獲得競争を制していたのは中国だったかもしれません。

第2は、クリストファー・コロンブスのサンタ・マリア号(貨物船)です。ヨーロッパ人による新世界の発見とそれに続く植民の流れを決定づけたのは、コロンブスのちっぽけな船による大胆な航海でした。

第3は、アメリカの礎を築いたピルグラム・ファーザーズたちをイングランドから運んだメイフラワー号(商船)です。宗教的不寛容から逃れるために、新天地を目指しメイフラワー号で大西洋を渡った開拓者たちは102人でした。

第4は、チャールズ・ダーウィンに進化論を思いつかせたビーグル号(調査船)です。南米の測量調査と地図作成を目的とするイギリス船・ビーグル号に、同行を誘わられた無名の若き博物学者が乗り込んだ時、世界を揺るがす理論が生まれるとは、誰にも想像できませんでした。

第5は、運ばれていた奴隷たちの叛乱で知られるアミスタッド号(奴隷船)です。この船には、貨物の一部として53人の奴隷が積み込まれていたのです。この事件の裁判の波紋で、アメリカとスペインの関係は10年ほど険悪になり、奴隷廃止運動が推し進められるという結果をもたらしました。

船の歴史を辿ることによって世界史を俯瞰するという著者の目的は、十分叶えられていると言えるでしょう。