戸籍がなく、育児放棄・虐待された少年は、高い知能指数だけが頼りだが・・・【情熱的読書人間のないしょ話(693)】
ツクシがにょきにょきと伸びてきています。満開のカンヒザクラ(ヒカンザクラ)にメジロ、スズメ、ヒヨドリがやって来ました。因みに、本日の歩数は10,706でした。
閑話休題、友人に薦められた『神の子』(薬丸岳著、光文社文庫、上・下巻)を読み始めたところ、ぐんぐん引きずり込まれて、一気に読み通してしまいました。
主人公の青年は、生まれた時、学校に行くようになると金がかかるという理由で出生届けがなされなかったため、戸籍がありません。学校に行かせてもらえず、満足な食事も与えられず、麻薬中毒の母親とその愛人から虐待を受けながら、この社会に存在しない者として生きてきたのです。14歳の時、母の愛人をナイフで傷つけ、家を飛び出します。18歳の時、殺人容疑で逮捕され、少年院に送られたことで戸籍がないことが判明し、彼には新しい戸籍と町田博史という名が与えられました。
その際、町田が常人離れした高い知能指数の持ち主であることが分かりました。彼はそれまで義務教育を一切受けずに生きてきたのですが、少年院で生活する1年ほどの間に義務教育で学ぶ内容を全て習得し、高卒認定試験に合格し、難関の東協大学理工学部に進学します。
14歳で家出してから18歳で逮捕されるまで、実は、町田はある犯罪組織に属し、振り込め詐欺グループのブレイン的役割を担っていたのです。
常に冷静で、虚無的で、傲岸不遜な町田が強烈な光を放っているだけでなく、彼を取り巻く人間たちのいずれもが敵味方を問わず個性的なので、臨場感が半端ではないのです。
町田の周囲で、信じ難い、恐るべき、謎多き事態・事件が次から次へと発生するので、ページを捲る手を一時も休めることができません。彼を標的とした得体の知れない、どす黒い巨大な陰謀が進行していることは間違いないのです。その謎に迫ろうとする、少年院で町田を担当した法務教官・内藤信一と、町田の下宿先の娘・前原楓の危険を冒しての必死の追跡が実を結ぶ日が来るのでしょうか。スピード感のあるストーリー展開と、どんでん返しの連続が私たちを魅了するのです。
本書はエンタテインメント作品ではありますが、「超一流の」エンタテインメント小説と言えるでしょう。信頼し合える仲間がいれば、どんな苦境に立たされようと、いつか這い上がることができる、そして、相手を自分のことより大切に思っている人間は、相手のために大きなことを成し遂げることができる――ことを教えてくれました。
退職後も、毎日、業界情報をまとめてメールしてくれる友人・瀧澤信夫に感謝している私ですが、今回、『神の子』という本の存在を教えてくれたことで、感謝の念が一層深まりました(笑)。