榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

自分で小屋を建て、寝転がっていても誰にも文句を言われない生活・・・【情熱的読書人間のないしょ話(771)】

【amazon 『自作の小屋で暮らそう』 カスタマーレビュー 2017年6月5日】 情熱的読書人間のないしょ話(771)

千葉のとある場所での、少人数のゲンジボタル観察会に参加しました。斜面林からの絞り水の小さな水路が続いています。その水路沿いで、数百匹のゲンジボタルの幻想的な乱舞を堪能することができました。ここでは、ゲンジボタルの幼虫も、餌となるカワニナも一切放流していないというのですから、驚きです。念願だったゲンジボタルを見ることができ、心に残る一夜となりました。因みに、本日の歩数は14,263でした。

閑話休題、『自作の小屋で暮らそう――Bライフの愉しみ』(高村友也著、ちくま文庫)は、実際に自分で小屋を建てて暮らそうという人には、心強い参考書となるでしょう。一方、私のように不器用で小屋を建てられない人間も、想像の世界で十分楽しめる一冊です。

著者が名づけた「Bライフ」とは、何でしょうか。「一生寝転がっていても誰にも文句を言われない正真正銘の自分の土地と、ちょっとした小屋、それにフカフカの布団とお気に入りの本、おまけにインターネットでもできるような設備があれば・・・。だいたいこんな妄想がBライフの入り口である。Bライフとは、安い土地でも買って適当に小屋でも建てて住んじゃおうという、言ってしまえばそれだけのライフスタイルだ」。

「金もない、技術もない、知識もない、協力者もいない、そんな人でも、素人業の積み重ねでなんとなくそれらしいものを作って、なんだかんだで生活していく」。

生活を続けていくのに、面倒なことはないのでしょうか。「日常的にやるべきことはほとんどないが、週に一度、作業日というのを決めておいて、屋内外で作業をした後、汗を流すために銭湯に浸かりに行く。その作業とは、●生活排水や雨水を菜園に撒き、時間によっては菜園の手入れ、●屋内外の掃除、草むしり、●近くの湧き水で洗濯をし、生活用水を汲む、●町へ出て買い物をする――せいぜいこんなところである。唯一、毎日ある程度まとまった時間をかけて従事しなければいけないことといえば、夕食の準備と後片付けだ。土鍋とガスコンロで米を炊いて、何か一品おかずをつける。夕食が済んだら調理器具を水洗いして、お茶かコーヒーを一杯用意し、それからまた自由な時間が始まる」。

著者の実体験だけに、その感想も説得力があります。「テントだろうが何だろうが、そこに10年でも100年でも寝転がっていられると思うと嬉しかった。ダンボール箱に土を敷いてトイレにし、近くの山で洗濯をした。ちょうど真冬で、朝はテント内のペットボトルの水が凍ったが、そんなハプニングすら嬉しいことの一つだった。午後2時から3時くらいまで、南西にある背の高い松のせいで敷地が陰になったが、『なんて具合の悪い土地なんだ』と思い、これまた嬉しかった」。この何事にも前向きな精神が、こういう生活を続け、楽しむ秘訣なのでしょう。

「屋根と壁さえあれば暖かく寝られるのに、日本では現代技術の粋を集めた超高級家屋しか売っておらず、それらを買うための借金によって最悪の場合おちおち寝ていられなくなる。この本末転倒とでも言うべき事態が出発点だった」。「更地を前に建造物と生活の想像を膨らませること、それを簡単な道具で一歩一歩実現すること、そして足るを知って暮らせる実感を得ることは、いかなる社会体制や思想的立場をも超えて、平和の礎になるはずである。そのとき湧き上がってくる昂揚と喜びは普遍的なものであり、時代に左右される泡沫のような価値ではない。その純粋な生の喜びを軸に生きてゆくことは、決して間違いではないはずだ。実際に小屋を建てる人も、想像して楽しむだけの人も、読者の心が平穏で静謐なものでありますように。未来に開かれた、束縛なきものでありますように」。本書は、ガイドブックの枠を超えて、哲学的な雰囲気を醸し出しています。