榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

演歌好きの、演歌好きによる、演歌好きのための作品・・・【情熱的読書人間のないしょ話(819)】

【amazon 『演歌の虫』 カスタマーレビュー 2017年7月21日】 情熱的読書人間のないしょ話(819)

あちこちで、さまざまなヒマワリが花を咲かせています。フサゲイトウの赤い花、黄色い花が目を惹きます。私がCSO(MR派遣・業務受託)を立ち上げた時、優秀な人材を次々と紹介し、当社を強力に支えてくれたリクルートエージェントの初代担当者・志村和哉さん、2代目担当者・森本貴行さん、当社の採用担当者・佐藤恵さん、このルートで当社のMRとなった小谷美幸さん――との情報交換会で、思い出話に花が咲きました。リクルートには創業者・江副浩正の精神が脈々と受け継がれていることを再認識しました。因みに、本日の歩数は10,205でした。

閑話休題、私は演歌大好き人間なので、遅蒔きながら短篇集『演歌の虫』(山口洋子著、文春文庫)を手にしました。

本書に収められている『演歌の虫』は、著者自身の作詞家としての体験が濃厚に滲む作品です。

「(ディレクターの)室(室田克也)さんは、アーティストの過去の栄光やネームバリューにとらわれることなく、薄っぺらな地方の同人誌のなかの一編や、名もない弾きがたりが送ってよこした一本のテープからでもぴたりと真物の匂いを嗅ぎとる嗅覚の持主だ。それはディレクターとして真物である証拠と同時に、室さんの心の広さや純粋さ、優しさでもある」。

「たしかに流行歌の世界は、常に時代の先端の若さが中心になって進行してゆくので、いかな実力者といえども一つ盛りの波を越えれば誰もがとり残された残像だ。だいいち日本にはスタンダードという歌がない。レコードが発売されたほんの短い一時期の後は、どれほど流行った歌も十把ひとからげになって、ナツメロと呼ばれてしまう」。

「答えながら私は憂鬱になる。私がいちばんいやなのは、昼と夜の仕事を混同されることだ。銀座で酒場をやっているせいで、何かと誤解を受けることが多かったが、私は夜の職場で作詞の打ちあわせをしたことは、一度もない。酒場へたまたま顔見知りのプロダクションの社長や、レコード会社の人間などがきて、お世辞と冗談半分に作詞を依頼されたりすることがあるが、本気ではきかない。シャンデリヤの下にいる人間は、ただのお客なのだと割りきっている。こちらがそう思えば、むこうにしてみても私はたまたま今夜行きがかりで遊びにきた酒場の女将にしかすぎない。夜の知りあいは、昼間の知人ではないのだ」。

「その反面ちらと、室さんという男は、(ディレクターの)細井や甲斐なんかより、ずっとやまっ気の多い人かもしれないと思った」。

「十五のときからネオン街の激流をくぐりぬけてこられた、私の原点も、その一点かもしれない。寒さと空腹がベースにあるからこそ、べたべたの情とぬくもりの演歌にのめりこめたのか」。

「嘘なんだと自分にいいきかせている。まるっきりドラマじゃないか。あの室さんが、あの元気だった室さんが、死んでしまうなんて、そんな現実はありっこない」。

演歌の味が染み込んだ作品です。