榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

動物のオスが求愛に熱心なのに、メスが消極的なのはなぜだろう・・・【情熱的読書人間のないしょ話(921)】

【amazon 『昆虫の交尾は、味わい深い・・・。』 カスタマーレビュー 2017年10月25日】 情熱的読書人間のないしょ話(921)

散策中、枯れ葉と見紛うチョウに出くわしました。最初は枯れ葉かと思ったのですが、近づくと飛び立ったのでチョウと分かりました。俗にカレハチョウと呼ばれるクロコノマチョウという滅多にお目にかかれない珍しいチョウで、図鑑で見たことがありますが、実物を見るのはもちろん初めてです。ムラサキシジミの雌、キタテハ、キタキチョウ、モンシロチョウも見ることができました。

閑話休題、私はかねがね、動物のオスが求愛に熱心なのに、メスがなかなか応じないのはなぜだろうと不思議に思ってきたが、『昆虫の交尾は、味わい深い・・・』(上村佳孝著、岩波科学ライブラリー)が、その疑問を解決してくれました。

「一部の選ばれしオスは、たくさんの子を残し得る。これが、動物全般においてオスは『交尾に積極的で、メスを巡って争う側の性』、メスは『交尾により消極的で、言い寄る相手を吟味する側の性』となる主因である。このような、異性を、または異性の配偶子をめぐる淘汰を『性淘汰』と呼んでいる。つまり、交尾をめぐってのオスとメスとの思惑はなかなか一致しない。これは『性的対立』と呼ばれ、性をめぐる様々な進化の原動力になっている。カブトムシの角がオスにしかないわけも、メスが逃げ回り、オスを蹴とばす理由も、このあたりにありそうだ」。

「交尾器(エデアグス)を出し、メスに交尾しようとするカブトムシのオス」の写真には、突き出された、体の割には大きなエデアグスが鮮明に写っています。カブトムシを繁殖させたことが何度もあるのに、エデアグスを見たのは初めてなので、びっくりしてしまいました。昆虫のエデアグスは哺乳類のペニスに相当します。

「これまで、オスとメスは交尾を巡って『せめぎ合い』の構図にあることを見てきた。メスが望む以上に交尾をしようとするオスと、それを拒否しようとするメスである。通常の有性生殖の場合、メスも一回は交尾しなければ子孫を残せないが、それ以上の交尾は無駄であり、かえってコストになる可能性がある。しかし、考えてみてほしい。それでもメスは複数のオスとつがうことが多く、その証拠として精子競争が起きている。では、メスはなぜ複数のオスとつがうことがあるのだろうか」。この設問に対し、著者は、●メスが複数のオスとつがうことで、子の数が増える「直接的利益」と、●どのメスも最良のオスにすぐさま出会えるわけではないのだから、取り敢えずの相手と交尾した後、より遺伝的質の高いオスと出会った場合は、メスが交尾し直す、すなわち、質の高い遺伝子を持つオスの子を残そうという「間接的利益(遺伝的利益)」に分けて考察しています。

「隠遁生活者であるコバネハサミムシのメスは、求愛者を拒まず受け入れ、特殊な受精嚢を持つことで、大型オスの精子を『選んで』いた。オープンな場所で交尾するシュモクバエのメスがその目で見て、気に入ったオスを選んで交尾するのとは対照的である。いま、「精子を選んだ」という表現を用いたが、これは果たしてオーケーなのか? メスが交尾前ではなく、交尾開始後に精子またはパートナーを選ぶことを『メスによる隠れた選択』と呼んでいる。略してCFCだ。気に入らないオスとの交尾は、中断する、もらった精子を吐き出す、すぐに別の相手を探す、妊娠しない・・・などなど、ありとあらゆるCFCの可能性を探究し、それを支持する証拠を集めたのは、コスタリカ大学のウィリアム・エバーハード氏だ。彼の大著は交尾器研究者のバイブルとなっている」。強かなメスは密かにオスを選んでいるというのです。

昆虫もヒトも、オス(男性)は大変だなあと再認識させられました。