榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

向田邦子に対する、6歳年下の男性の21年に亘る片想いの記録・・・【情熱的読書人間のないしょ話(923)】

【amazon 『片想い 向田邦子』 カスタマーレビュー 2017年10月27日】 片想い 向田邦子

散策中、カツラの黄葉、ハナミズキの紅葉、モミジバスズカケノキ(プラタナス)並木の黄葉、モミジバフウの紅葉、ユリノキ並木の黄葉、トチノキの黄葉を堪能することができました。因みに、本日の歩数は13,705でした。

閑話休題、『片想い 向田邦子』(菅沼定憲著、飛鳥新社)によって、向田邦子の不思議な魅力を再認識することができました。

本書は、向田の仕事仲間・菅沼定憲の向田への31年に亘る片想いの記録です。

「きれいな人・・・。新しい放送作家グループに参加するためにロビィに姿を現した向田邦子をはじめて見たときの印象です。女優のような容姿容貌の美しさではありません。もっと内面に秘められた、知性というか、情念というか、いや、そう簡単に覗き見できない、不思議なオーラみたいなものを感じさせてくれる美しさなのです」。この時、向田は30歳、菅沼は24歳でした。

「『ヤング720』はぼくが彼女と競作した最初で最後の番組で、以後、彼女はドラマ作家として成長し、ぼくはワイドショーの構成作家の道を選びます」。

「向田邦子は(ぼくとは)正反対で、プライベートライフは友だちに解放しますが、仕事のことは一切秘密にします。どうして逆なのか、その秘密を知りたいと思ったのが彼女への片想いのはじまりではないでしょうか」。

「彼女のみごとな気配りと引き際の見事さに圧倒されるばかりです。どうしてそんな態度をとれるのか、謎は深まるばかりです」。

「彼女のTVドラマは保守的で起承転結が明快です。その点で新しい驚きを発見することはありません。ですが、最後の『結』の部分で意外なストーリー展開を示してくれることがあり、そこが魅力だという批評もありますが、その結末も、奇想天外、驚天動地、というほどのことではありません。それなのになぜ面白がるのか、と言いますと、ぼくにとっては、ドラマを書いている向田邦子に片想いしているからです」。

「向田邦子は友だちといつも語り合いますが、話題は料理やオシャレのこと、それにさまざまな他愛ない噂話。脚本をいつ、どこで、どんな風に書くのかは決して語りません。その秘密は周りの想像力に任せるから魅力的、と考えるのはぼくの我田引水でしょうか」。

向田が他人の才能を見抜く才能の持ち主であったことが、大橋巨泉、井上ひさしなどの事例によって明らかにされています。

「年上女性に恋焦がれてひたすら待つというのはこういう気分かもしれません。それに彼女は自分がイニシアチブを握って遊ぶときと、友だちから誘われて遊ぶ場合とでは別人になります。よく言えば正直、わるく言えばわがままな人間です。清貧と謙遜が嫌いで、欲張りとわがままが好き。でも、礼儀正しい、そこが彼女の魅力と感じるのはぼくだけでしょうか」。

「向田邦子が天国へ旅立ってしまった後、妹の向田和子が姉を偲ぶ何冊も出版しております。そのうちの一冊、『向田邦子の恋文』には、1960年代の前半、向田邦子の激しい恋が描かれています」。『向田邦子の恋文』を読んだ時、私も衝撃を受けたことを鮮明に思い出します。10歳年上で妻子持ちのカメラマンN氏との熱烈な恋ですが、彼が脳卒中で片脚不自由となり、自殺してしまうことで、二人の関係は終わりを告げます。「やっぱり、彼女が愛したのはN氏だけなのでしょうか。情けないことに嫉妬を感じます」。

これまで向田に関する本はいろいろ読んできましたが、長年、片想いで胸を焦がし続けた男性の目に映った向田は、類書とは別の一面を見せてくれます。