福島第一原発の1号機冷却を巡る、驚くべき3つの事実・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1034)】
シジュウカラ、スズメ、ツグミといった、よく見かける野鳥も、観察していると、かわいい仕種を見せてくれます。因みに、本日の歩数は10,275でした。
閑話休題、『福島第一原発 1号機冷却「失敗の本質」』(NHKスペシャル『メルトダウン』取材班著、講談社現代新書)には、福島第一原発の1号機冷却に関し、驚くべきことが3つ記されています。
その第1は、吉田昌郎・福島第一原子力発電所所長が、津波で全電源を失った時、1号機で唯一動き続けるはずだった冷却装置・非常用復水器(アイソレーション・コンデンサー、略称:イソコン)が動き冷却できていると思い込んで事故対応の指揮を執っていたのに、実際には、この時、イソコンは止まっていたという事実です。「(現場の)中央制御室と(リーダーの吉田がいる)免震棟の情報共有には、大きな問題があったのである。イソコンが止まっているという情報を共有できず、事故対応を続けてきたことを、吉田は『猛烈に反省している』と語っている。結局、原子炉が十分に冷却できなかった1号機はメルトダウンに至り、その過程で発生した大量の水素が格納容器に充満して、翌12日午後3時36分に水素爆発を起こす」。このイソコンを巡る初動対応こそ、福島第一原発事故の進展の中で、複数の原子炉の同時メルトダウンという最悪の事態を引き起こすことになるか否かの最大のターニング・ポイントだったのです。
第2は、官邸・東京電力経営陣の命令に背いてまで、吉田が海水注入を敢行したにも拘わらず、事故発生から12日間、原子炉に届いた冷却水はほぼゼロだったという事実です。「吉田昌郎所長の事故対応をめぐって、繰り返し語られるのが、1号機への海水注入についての判断である。官邸サイドから中断の要請を受けながらも、命令を無視し、注水を継続したその判断は『英断』と評されてきた。・・・しかし、原子力学会でIRIDが発表した最新の解析では、実際にこのとき行った注水のうち原子炉に届いていた量は『ほぼゼロ』だったという」。吉田の「英断」は、1号機の冷却にほとんど寄与していなかったのです。
それでは、1号機の注水ルートに「抜け道」がなく、原子炉に冷却水が届いていればメルトダウンを防ぐことができたのでしょうか。「答えはNOだ。・・・SAMPSONによる最新の解析によると、1号機のメルトダウンはこの24時間前から始まっており、消防車による注水が始まった時点では、核燃料はすべて溶け落ち、原子炉の中には核燃料は全く残っていなかったと、推測されているのだ」。
しかし、大量の水が原子炉、あるいは格納容器の床面にある溶け落ちた核燃料に確実に届いていれば、コンクリートの侵食は十分に止まるはずだったのです。「(水が届かなかった)結果、もともとあった核燃料と原子炉の構造物、コンクリートが混ざり合い、『デブリ』と呼ばれる塊になった。・・・日本原子力学会で福島第一原子力発電所廃炉検討委員会の委員長を務める宮野は、大量に発生したデブリが、今後の廃炉作業の大きな障害となると憂慮する」。
第3は、リーダーと現場の情報共有がなされていなかったという事実です。「未曾有の事故に対して、有能だったリーダーと現場が双方とも懸命の対応を続けたにもかかわらず、なぜ、事故の拡大は防げなかったのか。・・・(証言や解明された事実関係から)浮かび上がってきたのは、リーダーや現場の個々の人間がどんなに優秀で、最善の努力をしても、その集合体である『組織』がうまく機能しないと、危機を乗り越えられないという重い教訓である。そして、その機能不全には、日本の組織の多くに通じる『弱点』のようなものが潜んでいるのではないだろうか」。危機対応に当たる組織は、リーダーと現場が刻々と変化する情報を緊密に共有していかない限り、困難を乗り越えることはできないのです。