榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

奇妙な獣の後を追ううちに、突然、得体の知れない穴に落ちてしまった私・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1089)】

【amazon 『穴』 カスタマーレビュー 2018年4月16日】 情熱的読書人間のないしょ話(1089)

黄色い花のモッコウバラが芳香を漂わせています。白い花のモッコウバラも、いい香りがします。あちこちで、一重のヤマブキ、八重のヤマブキが咲き競っています。この辺りでは滅多に見かけないズミが白い花を付けています。セイヨウタンポポの種子(綿毛、冠毛)は、よく見ると、幾何学的な美しさを有しています。因みに、本日の歩数は10,961でした。

閑話休題、『穴』(小山田浩子著、新潮文庫)に収められている『』では、仕事を辞めて、田舎の夫の実家の隣に夫と引っ越してきた30歳の「私」が遭遇したあれこれが綴られています。

川の土手を歩いていたら、先のほうを黒い獣が歩いているのが目に入りました。「暑さのせいで目が変になったのかと思ったが、何度見てもそれは生き物、明らかに哺乳類の何かの尻から脚にかけてだった。黒い毛が生えていて、大きさは中型の犬くらい、いやもっと大きいか。・・・それはトコトコと先を急いでいた。犬でも猫でもいたちでもたぬきでもいのししでもないように見えた。人も犬猫も小鳥もカラスも見当たらない路上で、ただ獣だけが歩いていた」。

奇妙な獣の後を追ううちに、私は、突然、得体の知れない穴に落ちてしまいます。

奇妙と言えば、夫の家族や隣人たちも、どこか奇妙です。

小説という形を採用すれば、それにどんな内容を盛ろうと、それは著者の勝手だと、私は考えています。読んで共感を覚える小説もあれば、内容が曖昧模糊としていて途方に暮れる小説もあれば、読者にいろいろなことを考えさせる小説もあります。本作品は、最初から最後のページまで、読み手にもやもや感、不安定感を与えることに成功しています。

たとえ、著者に「この獣や穴は何のメタファー(隠喩)か」と尋ねても、フランツ・カフカが『変身』の「巨大な虫」や『城』の「城」が何を意味するのかを明らかにしなかったように、答えることはないでしょう。