観音、地蔵、不動のことが、よく分かる一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1176)】
グラジオラスが朱色の花を咲かせています。グズマニア・ジャズの赤い花、黄色い花のように見えるのは苞です。ゴーヤーが黄色い花と実を付けています。実が段々大きくなってきました。モミジバスズカケノキ(プラタナス)の樹皮が斑(まだら)に剥げています。キッチンで夕食料理中の女房からの、毎晩やって来る2匹のヤモちゃん(ニホンヤモリ)の実況報告を聞きながら、私は、母校の東京・杉並区立松溪中学の赤荻千恵子校長から依頼された7月14日(土)の「卒業生と語る会」の講師の準備に、妹に当時の学校生活について記憶面での助けを求めるなど大わらわです。因みに、本日の歩数は10,019でした。
閑話休題、『観音・地蔵・不動』(速水侑著、吉川弘文館)のおかげで、観音、地蔵、不動について、いろいろと学ぶことができました。
観音、地蔵、不動は、「救済者」として人々の願いに応えてくれるがゆえに、遥かに高く遠い存在である仏よりも親しみの持てる信仰対象として崇められてきたのです。
●救うべき衆生に応じて、聖(正)観音が十一面観音、不空羂索観音、千手観音、馬頭観音、如意輪観音、准胝観音など33身に変化すること、●釈迦滅後における無仏世界の衆生を救済するのが地蔵であること、●大日如来の使者として、内に救済の心を秘め、外に憤怒の形相を示すのが不動明王であること――などが、丁寧に解説されています。
観音。地蔵、不動の流行には、大乗仏教、さらに密教(=秘密仏教)が深く関係しています。「9世紀初期に最澄と空海が将来した新仏教に対し王朝貴族が期待したのは、密教の修法でありその加持祈祷の威力であった。密教の修法は、本来、悟りや即身成仏実現のためにあり空海の真意もそこにあったのだが、天皇や貴族たちは加持祈祷の世俗的効力の側面に注目し護国の秘法としての現世利益に期待したのである。しかしこうした要請に応じて天台宗や南都の諸宗も密教化を進め、時をおかず密教は平安仏教の一大潮流となる」。
「一方、密教にやや後れて浄土教が台頭してこの2つが平安仏教の主流を成すが、現世利益と来世救済という相反する2つの信仰を同時に共存させる論理はどのようなものか。9世紀から10世紀にかけて律令的秩序が崩れ摂関体制が形成されるとその過程で脱落する貴族が現れる。かれらの間に個人的危機意識が深化し、個人の宗教的救済が希求されるにつれ、従来の鎮護国家仏教は変質し私的信仰が発生する。それは一方で私的願望を満たす密教の加持祈祷の発達となり、他方で来世救済を求める浄土教の発達となる。この2つは摂関体制形成期を境に顕著となる貴族社会の私的信仰の両側面であり、個々の貴族の信仰においても、現来二世安楽の願いとして両者が矛盾なく併存している例が多い」。要するに、欲張りな貴族たちは、現世の利益と、来世の救済の両方を求めたのです。
13世紀以降の武士の時代になると、「密教修法は政権と密着し、なかでも不動法は大いに用いられた。一方、六道の巷に立ち縁なき衆生を救済するとされた地蔵は、地獄での抜苦ばかりでなくこの世にあってもその救済を多様化させ、身代わり地蔵、田植え地蔵、勝軍地蔵など、農民・武士・湘軍など、身分を問わず広く中世の人びとの利益に応えて浸透した。また観音信仰についても、観音霊験所参詣が寺院側の勧進や三井寺系聖の活動により、貴族のみならず民間にも流行し、観音霊験所への巡礼も盛んになった」。