戦後の保守政党の思想潮流と離合集散を手っ取り早く知ることができる一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1227)】
ヤブランが薄紫色の花を咲かせています。ジョロウグモの雌が、獲物が網にかかるのを待ち構えています。
閑話休題、『自民党本流と保守本流――保守二党ふたたび』(田中秀征著、講談社)のおかげで、戦後の保守政党の思想潮流と離合集散を手っ取り早く知ることができました。
著者は、自民党を自民党本流と保守本流という異質な二つの流れが合体したものとする認識に立っています。「『保守本流』という言葉は早くから昭和20年代の(吉田茂元首相に率いられた)自由党に発する政治の流れを表わす言葉として定着しています。これに対して、昭和30年の保守合同、自由民主党の結成を強力に主導した岸信介元首相に発する流れを私は『自民党本流』と呼んでいます。というのも、自民党の党是とされる憲法観や歴史観は、岸思想そのものであり、保守本流のそれとは明らかに違いがあるからです。人脈上では自民党本流に属する福田赳夫元首相、小泉純一郎元首相などは『党是』に対しては柔軟に対応してきましたが、岸元首相の孫に当たる安倍晋三現首相は、かたくななまでに『党是』を強調している印象です」。
「保守本流は、大平正芳、田中角栄両元首相が肝胆相照らす仲であった頃が最強であったと言われる。その田中角栄を私は保守本流武闘派の創設者であり総帥でもあると位置づけている。そしてこの武闘派と理念派(宏池会)が互いに補完し合って1970年代以降の政治と経済を取り仕切ることになる」。
本書で、石橋湛山元首相は別格の扱いを受けています。「(戦前)湛山は『領土拡大は不経済』と経済合理主義の観点からも大日本主義を酷評し、『平和主義により、国民の全力を学問技術の研究と産業の進歩とに注ぐ』必要を説く。『兵営の代りに学校を建て、軍艦の代りに工場を設くる』べきだと主張した。私は近年、日本が目指す国家像として、『世界から必要とされる国』を掲げている。日本が常に世界から必要とされる役割を引き受け、世界から必要とされるものを生み、供給し続ければ、日本が排斥されることはない。湛山と同じようにそう確信するからである」。
『自由論』で知られる、私の好きなJ・S・ミルにも言及されています。「『小英国主義』の理論的支柱となり、自由主義者ばかりか穏やかな社会主義者にも広く尊敬されたJ・S・ミルもこの湛山の発想に近い印象がある」。
これ以外にも、本書には多くの政治家が登場しますが、「鉄の三角形」という言葉が私の目を惹きました。「細川(護熙)は気まぐれとか移り気と言われるところもあったが、私の印象では、思想的に骨太で基本政策の軸足がブレたことは一度もなかった。保守本流の思想的枠組を堅持していたので、宮沢(喜一)には安心できる同志であった。とりわけ『海外での武力行使は、いかなる場合も認めない』という考えは二人が決して譲らないところ。ここに後藤田正晴が加わって『鉄の三角形』を形成している感があった。宮沢と後藤田には戦争を知る世代の共通した思いが背景にある。先の大戦に対する深い反省と二度と戦争を起こさない決意が政治活動の原点となってきた。細川は終戦の前年に小学校(国民学校)に入学しているから二人とは戦争体験が違う。ただ、彼は大戦に深く関与した近衛文麿元首相を祖父に持つ。祖父の功罪に対する深い思いが、自然に強固な歴史認識を形成したのだろう」。私は、戦争を二度と起こしてはいけないという信念を持っている政治家しか信用しないことにしています。
著者が本書で訴えたかったのは、冷戦に対応するために合流した自民党本流と保守本流は、再び分離して競争関係に立つほうが今後の日本の政治にとって有益だということです。具体的には、「もしも現行(選挙)制度を転換し、贈収賄罪の罰則を強化した中選挙区制、あるいは中選挙区連記制に移行すれば、本書で期待する政治の流れは格段に早まります。次の総選挙で二つの有力な政党が出現する可能性が必至となるでしょう。そうでなければ、小選挙区・比例代表並立制の細川政権が国会に提出した当初案に戻ることも有効な選択肢です。この当初案は、二大政党より『穏健な多党制』を目指したものでした」。