下野草(しもつけ)や募る思ひをもてあまし・・・【山椒読書論(801)】
【読書クラブ 本好きですか? 2023年8月3日号】
山椒読書論(801)
『花のもとにて――花のPHOTO俳句集』(牧やすこ著、新潮社 図書編集室)は、作者の人生を垣間見させる味わい深い俳句と、作者自身が撮影した季節を身近に感じさせる花々が融合して、不思議な世界を現出させている。
とりわけ、下記の16句が私の心に沁みた。
●金縷梅(まんさく)にたたずみをれば名を問はれ
●梅三分再婚話二つきて
●花満ちて好きもきらひももう忘れ
●翁草(おきなぐさ)けんくわしながら共に老い
●亡き人の徳利に挿すや夏椿
●下野草(しもつけ)や募る思ひをもてあまし
●捩花(ねぢばな)や誰にもいへぬ恋をして
●肩そつと抱かれしままにこぼれ萩
●皺の手で庄内柿を剥きくれし
●白芙蓉嘘のつけない人であり
●溝萩(みそはぎ)や生者と死者の間(あひ)に咲き
●文机に通草(あけび)をいけて書きかけて
●蝋梅(らふばい)やたをやかに齢重ねたき
●茶の咲いて無口な人と暮らしをり
●落葉掃く男の肩に落葉降る
●許されぬ恋を落葉に埋めけり