医師、警察が死後経過時間の判断に迷うケースが、法昆虫学者の出番だ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1258)】
コスモスの花の蜜を吸うために、アゲハチョウ、キタテハ、ツマグロヒョウモンの雌、モンキチョウ、イチモンジセセリ、キンケハラナガツチバチの雌、セイヨウミツバチが群れています。アオバハゴロモを見かけました。ヒガンバナの仲間のショウキズイセン(ショウキラン、リコリス)が黄色い花を咲かせています。因みに、本日の歩数は10,683でした。
閑話休題、『虫から死亡推定時刻はわかるのか?――法昆虫学の話』(三枝聖著、築地書館)のおかげで、法昆虫学という分野の知識を深めることができました。
「法医解剖室で私が面会するのは、誰にも看取られず、いつ亡くなられたのかわからない死体、あるいは腐敗が進行し、誰だか判別できなくなってしまった死体、という例がほとんでである。病院で死亡診断をする機会があり、死体をみる経験を重ねた医師・歯科医師であっても、近寄り、直視することをためらうような死体ばかりであり、相応の『覚悟』がいるのである」。
「猛烈な臭気の澱みの底で、その発生源である死体は、とても静かで穏やかである。私は短い黙祷の後、右手にピンセット、左手に熱湯の入った紙コップを持つと、解剖台に近づき、死体を観察する。そこに死体の静寂とは対照的な生命活動を目の当たりにする。その生物こそが私の対話の相手であり、多くの場合、その『生物』とはクロバエ科あるいはニクバエ科の幼虫、つまり蛆(ウジ)である」。
「私は執刀医のじゃまにならないように気をつけながら、死体についている昆虫学的証拠(生きている昆虫や昆虫の死骸あるいはその一部)を探し、採集する。その際、可能な限り、昆虫識別、サイズ別、成長段階別に容器を分けて採集するようにする」。
「(解剖も終盤となり)死体についている昆虫の種類もほぼ出つくしたようだ。そろそろ、執刀医と検視官に私の『推定』を伝えるころあいだ。採集した昆虫を再確認する。採集された昆虫種数、もっとも成長した昆虫の成長段階、最大のウジの体長などを頭のなかで整理し、現在の状況を合理的に説明する仮説を構築する。『ウジは少なくとも3種います。現時点で正確な種は同定できないものもありますが、いずれも暖かい季節に活動するハエのウジとみてよいでしょう。(死体発見)現場にはハエの成虫も飛んでいないし、蛹も見当たらなかったとのことですね。そうすると、この16ミリのウジの母親が一番にこの死体に卵を産んだと考えられます。卵が孵化してウジが16ミリに成長するまでには、今時期の気温でも、5日もあれば充分だと思います』」。
「捜査情報から、死者の最終生存確認は6日前の夜とのことである。死者はおそらく最終生存確認後から翌朝までのあいだに亡くなり、その後、日中(5日前)にハエが死体を見つけ、産卵したものと結論づけた」。
法昆虫学者に出番が回ってくるのは、死後経過時間に関して、医師が匙を投げ、警察も確たる情報が得られない場合なのです。