榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

73歳の古本屋店主の、古本屋の日常を巡るエッセイ集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1927)】

【amazon 『古本屋の四季』 カスタマーレビュー 2020年7月24日】 情熱的読書人間のないしょ話(1927)

アブラゼミの雄、カマキリの幼虫、ニホンカナヘビをカメラに収めました。ニホンカナヘビの尾の長さが、よく分かりますね。NHK・BSプレミアムで放送中の「にっぽん縦断 こころ旅」を見ていたら、何と、今日の舞台は、私の散策コースのうちの2つ――大堀川コース、利根運河コース――ではありませんか。

閑話休題、『古本屋の四季』(片岡喜彦著、皓星社)は、神戸で古本屋「古書片岡」を開業して11年という、73歳の店主の古本屋の日常を巡るエッセイ集です。

「『断腸の想い』伝わる」には、こういう一節があります。「2013年3月に看護師でケアマネジャーをされている人に紹介された82歳の愛書家から本を譲り受けました。・・・冊数は約3000冊でした。・・・この高齢の愛書家は、歳を感じさせないほど矍鑠とされていました。転居でもなく、金銭的に困られてもいず、なのになぜ蔵書を処分されるのか。理由は夫人の認知症が進行、さらに骨折されて入院中で、帰宅されたときに夫人用のベッドを置く部屋を確保するためとうかがいました。本を段ボール箱に詰める合間に愛書家が語られる夫人の症状を聞きながら、『断腸の想い』だろうなと推察しました。整理が終わるのに20日間を要しました。その間は店内を『蟹の横ばい』状態で歩きました。この分類、整理は楽しい作業でした」。

「その日はいつか」では、蔵書を処分する人たちが分析されています。「蔵書を処分される人の傾向を紹介してみます。1件目の例は蔵書家本人が、ご自身の意思で処分されるときの理由は転居や増改築が多いようです。蔵書家は高齢者が多く、介護ベッドを搬入する空間を確保したい、子どもが戻ってくるので部屋を空けたい、などでした。この人たちの特徴は本に愛着と未練があるようで、すべてを一挙に処分することができず、『これだけは手元に置いておきたい』『本棚のこの列の本は残しておきます』といわれます。引き取りに行き、ご夫人が傍らにいると『邪魔だからこれも持って帰って、これも、これも』といわれます。夫は慌てて引き留めるという光景をよく目にします。2件目の例は蔵書家本人がすでに亡くなられている場合です。遺族にとっては重たくて場所を取る本は邪魔物扱いです。選別をするなどという余地もなく、『ともかく全部持って帰って』となります。ただ、亡くなられて間のない遺族や、本への理解がある遺族は『亡き人との思い出に繋がるので、この本はしばらく置いておきます』となります。3件目の例は本の所有者や家族・遺族とも会わないで引き取る場合です」。

「先生、知っていますか」には、「背取り」が登場します。「お客さんにもいろいろいらっしゃいます。趣味の延長線、生活の糧として、公式な商いではなくインターネットによる通信販売を専門にしている人もいます。売れると思う本や依頼のあった本を、既存の古本屋から買い揃えるのです。たまには古書籍組合の組合員仲間も買いに来られることがあります。専門用語では、この行為を『背取り』といいます。このネット専門の人の見分けはつかないのですが、それらしき人が2人ほどいます。求められるときの冊数や支払いのときの態度です。最終的には、その本を求められている人に届くことになります」。

私も、そろそろ、書斎の四面の壁を占拠している書棚の本たちの行く末を真剣に考えねばならない年齢になったようです。