榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ロッキード謀略説を木っ端微塵に論破した、田中角栄の評伝・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1295)】

【amazon 『田中角栄――同心円でいこう』 カスタマーレビュー 2018年11月7日】 情熱的読書人間のないしょ話(1295)

あちこちで、濃桃色、淡桃色、白色のサザンカが咲いています。オトメツバキが薄桃色の花を咲かせています。東京・浅草の居酒屋で、イーピーメディカル時代の仲間Tと楽しい一時を過ごしました。因みに、本日の歩数は10,121でした。

閑話休題、田中角栄が好きなので、これまで角栄本はいろいろ読んできたが、『田中角栄――同心円でいこう』(新川敏光著、ミネルヴァ日本評伝選)は、ロッキード事件を巡る記述が充実しています。

角栄自身がロッキード事件をどう考えていたのか、三木武夫がどういう動きをしたのか、ロッキード謀略説は成立するのか――が、私の好奇心を刺激しました。

「ロッキード事件でアメリカに嵌められたと思い込んでいた田中・・・」。

「田中は、そもそもロッキード事件に関する(三木)首相官邸や検察の動きについて十分な情報収集・分析を行い、逮捕に対する対応策を練っていなかったようだ」。角栄には珍しいことだが、油断したのでしょう。

「第一審のロッキード判決後、目白で激高する角栄・・・」。

「病に倒れて以降の田中角栄の心中を察するに余りある。長年にわたって築き上げた城が崩れ去るのを、ただ黙って見ているしかなかった。人一倍、いや十倍、百倍も活力のあった角栄が、体だけでなく言葉の自由も奪われ、なすすべもなく、死の闇に呑み込まれていった。田中角栄逝去の報に、人々は過ぎ去った昭和に思いを馳せ、しばし感慨にふけった」。

「三木(首相)は、アメリカ側に資料提供を求める親書を送り、さらに検察にコーチャンへの嘱託尋問を行わせるなどして、『徹底究明』の姿勢を打ち出す。田中からたびたび煮え湯を飲まされてきた三木は、首相権限をフルに活用して、一気に田中の息の根を止めようとした。小沢一郎は、田中角栄も、金丸信も、竹下登も、権力のなんたるかを知らず、それをマキアヴェリ的なイメージで知っていたのは三木武夫だけだと指摘している」。

「マキアヴェリストといわれた三木であったが、その根底には、穏健かつリベラルな政治観があった」。私は三木武夫も好きです。

「田中逮捕に湧くマスコミとは対照的に、永田町界隈では『三木首相は、冷厳なものだ。検察を完全に握っている。今度の逮捕で、権力闘争の相手を射殺したのだ』という冷めた見方が広まる」。

「5億円授受そのものには触れず、田中を擁護する議論がある。謀略論である。すなわちロッキード事件は、アメリカの仕掛けた罠であり、田中は嵌められたというのである」。

中曽根康弘が、「のちに(ヘンリー・)キッシンジャーは『ロッキード事件は間違いだった』と密かに私にいいました」と語った件について、著者はこう考察しています。「それが何を意味しているのかはあいまいである。少なくとも、その発言だけから『田中をロッキード事件で罠にかけたのは間違いだった』と解釈するのは強引すぎるだろう。むしろ三木親書に応えて調書を日本側に渡したのは間違いだったと理解するのが自然ではないだろうか。もしそうであれば、キッシンジャーの発言は5億円の授受を否定するものではないし、いわんやアメリカ政府が田中を罠に陥れたことを認めたものでもない」。

「徳本栄一郎は、アメリカ側の資料を調べ、アメリカ側の関係者へのインタヴューを行って、謀略論の裏付けが全く取れなかったと報告している。またアメリカ国務省の秘密解除文書やアメリカでの裁判記録等に丹念に目を通した奥山俊宏も、やはり謀略を示唆する証拠を発見できなかった。アメリカが田中の資源外交に警戒心を抱いていたことすら、確証を得ることができなかった、キッシンジャーが田中を嫌っていたことは事実でも、CIA、議会、ロッキード社等と共謀して田中を陥れたという形跡はない。むしろキッシンジャー国務長官は、政府高官の名前を含む資料の公開についてエドワード・レビ司法長官に慎重な対応を要請していた。だとすれば、キッシンジャーの『ロッキード事件は間違いだった』という言葉は、やはり日本政府に資料を渡したのが間違いだったという意味ではないかと思われる。そもそもチャーチ委員会にとってロッキード事件は、多国籍企業の活動調査のなかから副産物として発見されたものであって、田中をピンポイントに狙ったわけではない」。この指摘は説得力があります。

「元民社党委員長の塚本三郎は、謀略論をとった場合に生じる様々な疑問を指摘している。謀略で田中を追い落としたとすれば、アメリカはなぜ田中が闇将軍として君臨することを許したのか。田中はスキャンダルの多い男であり、ピンポイントで狙うこともできたのに、なぜあちこちに累が及ぶような事件を仕立てたのか。アメリカにとって、当時自民党以上に都合の良い政権はなかったはずである。またCIAのエージェントである児玉誉士夫を巻き込んだのはなぜか。下手をすれば、アメリカにとっても都合の悪い結果を招いたはずである」。この主張は理路整然としています。

謀略論もあり得るかなと考えていたが、本書を読み終わって、私の中では、ロッキード謀略論を卒業することができました。