33年間、こよなく愛するチンバンジーたちと暮らしたジェーン・グドールの自伝・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1303)】
夜の東京・神楽坂の小路は風情があります。神楽坂でイーピーエス時代の若い仲間と一献傾け、大いに語り合いました。若山牧水の「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり」ではないが、楽しい一時でした。ただし、私が好きだった天地真理を誰も知らないのには、年代差を感じ、愕然としました。因みに、本日の歩数は13,725でした。
閑話休題、『チンパンジーの森へ――ジェーン・グドール 自伝』(ジェーン・グドール著、庄司絵里子訳、松沢哲郎解説、地人書館』は、3つの点で魅力的な自伝です。
魅力の第1は、ジェーン・グドールという女性の履歴が率直に語られているので、さまざまな関門も乗り越えることができると勇気づけられること。
「アフリカへの最初の旅は、ケニア・キャッスルという定期客船に乗って、海を渡っていきました。23歳のときです。このすてきな船旅のことは生涯忘れないでしょう」。
「2ヵ月たったとき、私の夢をすべてかなえてくれる人と出会いました。ルイス・リーキー博士(=人類学者・古生物学者)です」。
「これほど幸せだと思ったことはありませんでした。人間のすんでいるところからはるか遠くはなれた地、アフリカの原野で、動物たちに囲まれて夜をすごしているのです。野生の、自由に生きている動物たち。これこそ、私がずっと夢見てきたことでした」。
「ルイスは、彼のところで働く科学スッタフが高学歴であろうとなかろうと気にしていませんでした。彼にとってだいじなことは、スタッフが知識を持っていること、よく働くこと、そして一身をささげる心がまえでした」。「私は何の訓練もうけておらず、学位もなく、経験もなかったので、まさか自分がその研究者としてえらばれるとは思ってもみませんでした。それでも、チンパンジーの調査をしたくてたまりませんでした」。
「1960年7月16日、この日を生涯忘れることはないでしょう。この日はじめて、チンパンジーのすむ地、ゴンベ国立公園の砂利と砂の浜辺に第一歩をしるしました。私は26歳でした」。
「(息子の)グラブが7歳になったとき、(最初の夫の)ヒューゴーと私は別居し、離婚しました」。
「(第二の夫)デリックは、私たちが結婚してわずか数年のうちに、癌で亡くなりました」。
第2は、33年に亘り彼女が携わってきた動物行動学の世界が身近に感じられること。
第3は、彼女が愛して已まないチンパンジーの生態が臨場感豊かに描かれていること。
「チンパンジーはおもに果実を食べますが、そのほかにもいろいろな種類の葉、花、種、茎を食べるということがわかりました。また、彼らはさまざまな昆虫を食べたり、ときには肉を食べるために狩りをして動物を殺すこともあるということを、私はのちになって発見しました」。
「興奮のあまりぞくぞくしました。(チンパンジーの)デイビッドが、ものを道具として使ったのです! シロアリがつれやすくなるように、小枝に加工もしました。つまり彼は、道具を使うだけでなく、作ったわけです。このことを観察するまで、科学者たちは道具を作れるのは人間だけだと考えていました。人間をのぞくと、チンパンジーがもっともたくさんのものを道具として使う生きものだということが、のちのちの観察からわかることになります。この発見をほかの誰よりもよろこんだのは、ルイス・リーキーでした」。「チンパンジーは、雨にうたれてみすぼらしいようすをしていました。寒そうにふるえています。道具を使うほどかしこい彼らが、雨にぬれないようにおおいを作ったりしないのは意外でした。カゼをひいて、せきをしているチンパンジーがたくさんいました。雨がはげしく降っているときには、いらいらして機嫌が悪いようでした」。
「(チンパンジーの)フローの観察から、メスのチンパンジーの交尾の相手は1頭に決まっていないということも知りました」。
「チンパンジーは人間によく似ていて、それぞれに個性があります。中には好きになれないのもいましたし、まあまあのもいましたし、ほんとうに大好きになったチンパンジーもいました」。
「チンパンジーの研究によって、私たちは以前より人類のことをよく知ることができました。私たち人間は、以前考えられていたほど、動物界のほかの生きものたちとちがったものではないことがわかりました。人間にしかできないと考えられていたことが、チンパンジーにはできるとわかったのです。たとえば、チンパンジーは道具を使ったり、作ったりします。耳の不自由な人が使う手話を少なくとも300語おぼえ、これらのことばを使って文を作り、人と『話す』ことができるということもわかりました」。
私にとって意外だったのは、ハイエナの実態です。「あなたはハイエナのことを、ライオンの食べ残しをあさる、こそこそした卑劣なそうじ屋だと思っているのではありませんか。それはちがいます! 彼らはすばらしいハンターで、小動物だけでなくヌーやシマウマを捕らえます。じっさいはライオンの方こそ、ハイエナがとった獲物を横どりします。・・・ハイエナは、ほんとうにおもしろい動物です。チンパンジーのように、なかのよい者どうしが集まった、小さなグループで行動しています。チンパンジーのように、はっきりした個性があり、魅力的なふるまいをします。チンパンジーのように、なわばりを持ち、となりの一族のハイエナが入ってきたりすると殺すこともあります。大きなちがいは、チンパンジーの社会ではオスが優位ですが、ハイエナの社会ではメスが優位だということです」。