榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

日本、オランダ、英国で保存されているニホンオオカミの剥製標本5点を見た著者の印象とは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1317)】

【amazon 『ニホンオオカミの最後』 カスタマーレビュー 2018年11月28日】 情熱的読書人間のないしょ話(1317)

キンカンの実が黄色く色づいています。さまざまな色合いのキクが咲き競っています。ツタが紅葉しています。サザンカの花弁が地面を桃色に染めています。因みに、本日の歩数は10,013でした。

閑話休題、『ニホンオオカミの最後――狼酒・狼狩り・狼祭りの発見』(遠藤公男著、山と溪谷社)で、とりわけ私の興味を惹いたのは、ニホンオオカミの剥製標本に関する部分と、ニホンオオカミのルーツに関する部分です。

「狼といえば、日本にはかつて大小2種類がいた。北海道には大型のエゾオオカミ、本州、四国。九州にはやや小さいニホンオオカミだ。惜しいことにエゾオオカミは明治22年ごろ、ニホンオオカミは明治38年に奈良県鷲家口での捕獲を最後に滅びたとされる」。

著者は、ニホンオオカミの日本国内で保存されている剥製標本3点と、フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトがオランダに持ち帰ったライデン国立民族学博物館に保存されている剥製標本1点、マルコム・アンダーソンが持ち帰ったロンドンの大英自然史博物館に保存されている仮剥製標本1点を実際に見ています。「哺乳動物の標本は、義眼を入れ、本物そっくりな姿態に作る本剥製と、義眼は入れずに一定の形に作る仮剥製に分けられる」。

ロンドンの標本は、明治38年1月23日、奈良県小川村(現東吉野村)鷲家口でアンダーソンが猟師から買った雄のニホンオオカミです。著者の5点全てを見ての印象が、正直に記されています。「日本に残る3体の剥製標本は、いずれも毛色がさめている。シ―ボルトの狼はジャッカルのようだ。それに対し、アンダーソンの狼は、もっとも狼らしいもの。ロンドンまで来て、とうとう本物に出会えた!」。アンダーソンのニホンオオカミの標本の写真が収録されているが、実際、他の標本(日本の2点は私も見たことがある)とは異なり、迫力があります。

「エゾオオカミは大陸の狼の系統で、ニホンオオカミより大きかった。残念なことに明治の半ばに滅び、剥製標本は北海道大学付属博物館に2体しか残っていない。これはシェパード犬より大きくたくましい狼だ」。いつか、この標本も見てみたいものです。

「石黒直隆さんは、日本で初めてニホンオオカミのDNAを調べた学者として名高い。オオカミの頭骨からドリルで少量の骨粉を削りとり、ミトコンドリアDNAを分析して、イヌともタイリクオオカミとも大きく違っていることを突き止めた。平成26年、『ニホンオオカミは日本の固有種ではなく、タイリクオオカミの亜種である』と発表。遺伝子のデータから、『ニホンオオカミは、今から9万~12万5千年前に、当時大陸に棲んでいたオオカミから枝分かれし、朝鮮半島から日本列島へ渡って来た』と推理した。当時は朝鮮半島と日本列島は海面が低くて四国、九州も本州につながっていたのだ。石黒さんの推論は説得力がある。こうして頭骨の形だけの考察で留まっていた日本のオオカミ分類学は、劇的に展開する。私も感動した。しかし、日本に渡来した大陸のオオカミの先祖は見つからないという。すでに滅んでしまったらしい。朝鮮半島の狼はもっと大型でDNAも違うという。一方、北海道に生息したエゾオオカミは、約1万4千年前に枝分かれし、サハリン経由で渡って来たという。体格はタイリクオオカミなみで、ニホンオオカミよりずっと大きい」。