榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

一人の部下の大局的判断の欠如が、皇帝ナポレオンの没落を決定づけた・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1331)】

【amazon 『人類の星の時間』 カスタマーレビュー 2018年12月12日】 情熱的読書人間のないしょ話(1331)

苞が淡桃色のポインセチアを見かけました。クリスマスが近づいてきましたね。因みに、本日の歩数は10,614でした。

閑話休題、『人類の星の時間』(シュテファン・ツヴァイク著、片山敏彦訳、みすず書房・みすずライブラリー)には、歴史を左右した重要な瞬間に焦点を絞った12篇が収められています。

とりわけ強く印象に残ったのは、「ウォーターローの世界的瞬間――1815年6月18日のナポレオン」です。

ウォーターロー(ワーテルロー)の戦いは、流されていたエルバ島を脱出しフランス皇帝に返り咲いたナポレオン率いるフランス軍と、ウェリントン率いるイギリス・オランダ・プロイセン連合軍が激突した大規模な戦闘です。大敗したナポレオンの没落を決定づけた重要な戦いでした。

大敗を招いた最大の原因は、ナポレオンが一軍を委ねたグルシー元帥の大局的判断の欠如にありました。ナポレオンの命令に忠実に従うことで出世してきたグルシーは、戦いの雌雄を決する決定的な局面で、自ら大局的・戦略的な決断を下すことができなかったのです。

「(この戦いは)不安と希望とが絶えず変転し、それが突如として一つの極端な破局の一瞬間の大詰となることによって、劇的な緊迫の一傑作であり、まがいもない一つの悲劇の典型である。なぜなら、このただ一つの運命の中で、ヨーロッパの運命が決定されたのであり、そしてナポレオンという存在の巨大な仕掛花火が、一つの打上花火のように空に燦然と駆けのぼり、またたくまに墜落して永久に消えてしまったからである」。

「真夜中になり、よごれてほこりまみれになって村の一軒の低級なはたご屋の椅子にぐったりと彼(ナポレオン)が腰をおろしたとき、彼はもう皇帝ではなくなっていた。彼の帝国、彼の治世、彼の運命は終った。もっとも果敢な、もっとも先見の明に富んでいた人物が勇ましい20年間に建て上げていたものを、平凡な一人の人間の臆病さが挫折させてしまったのであった」。

さすがツヴァイク、彼のペンは、グルシーの優柔不断ぶりとナポレオンの苛立ちを臨場感豊かに描き出しています。