榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

天井まで積み上がった蔵書の山崩れのせいで風呂場に閉じ込められた男・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1357)】

【amazon 『随筆 本が崩れる』 カスタマーレビュー 2019年1月6日】 情熱的読書人間のないしょ話(1357)

10時6分、日食グラス越しに部分日食を撮影しました。我が家の庭にシジュウカラのカップルがやって来ました。メジロのカップルは皆勤賞です。因みに、本日の歩数は10,065でした。

閑話休題、『随筆 本が崩れる』(草森紳一著、中公文庫)に収められている「本が崩れる」は、家中を埋め尽くしている蔵書との抱腹絶倒の格闘談です。

「数年前、風呂場の中に閉じこめられたことがある。一仕事が終り、ひさしぶりに痒くなった白髪頭でも洗ってやろうかと、廊下のそばにあるドアをなかばあけ、いざ風呂場へと、いつもの調子で窮屈そうに半身を入れた途端、なにか鋭い突風のようなものに背をどやされて、クルッと脱衣室の中へ捲きこまれるように押しこまれてしまった。ドドッと、本の崩れる音がする。首をすくめると、またドドッと崩れる音。一ケ所が崩れると、あちこち連鎖反応してぶつかり合い、積んである本が四散する。と、またドドッ。耳を塞ぎたくなる。あいつら、俺をあざ笑っているな、と思う。こいつは、また元へ戻すのに骨だぞ、と顔をしかめ、首をふる」。

「一応『ガチャガチャ』とノブをまわしてみる。そば近くの本が崩れ倒れる音を耳にしているので、つまりドアを動かなくしてしまった理由を知っているので、むなしい音楽行動だ。そこでノブをいっぱいいっぱいにまわしたのち、からだごと力をこめてドアを向うへと押して見る。すこし動く。それだけで、あとは微動だにしない。崩れた本の群れが、あらたなる無秩序な山(崖くずれの跡だ)を築き、ドアを塞いでしまったのは、確実であった」。

「さてさて、これからどうするか。はからずも私は、風呂場の中に監禁されてしまった」。

「私が風呂場に監禁された時、私の資料群は、まさにそのような険悪な状況下にあった。浴室へのドアに面した廊下の前はもちろん、すぐそばの左右にも、本がそそり立っていた。廊下の端から風呂場の入口まで、しかも肩ぐらいの高さにまで、本は積みあがって、長い一列をなしている。これは入って左側だが、右側は本棚の背もたれがあるので、私の身長をこえて天井まで本が積みあがっている」。

その後、著者がどうなったかは、読んでのお楽しみ。

「この世に息しているかぎり、私はこれからも『本』なるけったいな妖怪どもと闘っていかねばならぬのだろうな、ということでもある。『本』には、著者や関係者のおどろおどろしたエネルギーがみっしりと詰っている。ひとまず本の(置き場所や扱いの)解決など考えぬ。わが漫画人生の続行である」。

著者のような物書き商売は、資料本の山と山崩れに悩まされる運命から逃れられないのですね。その点、読書が趣味の私の場合は、書棚に収まり切らず、雨後の筍状態の書斎の蔵書対策を考えるだけで済むので、著書よりずっと恵まれています。