榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

短篇『鉄橋』は、推理小説的要素と深層心理的要素を濃縮した作品・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1365)】

【amazon 『少女架刑』 カスタマーレビュー 2019年1月14日】 情熱的読書人間のないしょ話(1365)

今日は、バード・ウォッチャー榎戸にとって、夢のような一日でした。「冬の貴婦人」と呼ばれるタゲリを初めて見ることができただけでなく、その撮影に成功したからです。因みに、本日の歩数は10,652でした。

閑話休題、『少女架刑――吉村昭自選初期短篇集(Ⅰ)』(吉村昭著、中公文庫)には、吉村昭自選の初期短篇7篇が収められています。1篇を除き、さまざまな死の形が描かれているが、後の吉村の長篇に通底する観察眼の確かさと、情景を的確に伝える描写力が顔を覗かせています。

死んだ少女の視点から自らの献体、解剖、火葬、納骨の一部始終を淡々と語る『少女架刑』、轢死した男を巡る不倫が露わになっていく『死体』、善意から殺人に至る『星と葬礼』――も興味深いが、一番読み応えがあったのは、『鉄橋』です。

「(轢死した)死者の顔はむろんのこと、体もほとんど原形をとどめぬまでにこわされていた。ただ、両足だけは列車の車輪で不思議にもきちんと切られていたために片方は足首、片方は腿から、そのままの形で残されていた。『全くひどいこわされ方だね。俺ももう三十年も保線の仕事をやってきたけど、こんなにひどいのは今まで見たことがないよ』。小柄な痩せた最年長の男が、火にあたりながら言った」。

この死体が日本を代表するプロ・ボクサー、北尾与一郎のものであることが判明するが、死因を巡っては自殺説が事故説を圧倒します。

ところが、最終部分に至って、死の思わぬ真相が明らかになっていきます。

『鉄橋』は、推理小説的要素と深層心理的要素を濃縮した作品です。さすが、吉村です。