榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

山小屋で10年働いた女性が綴った本音エッセイ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1654)】

【amazon 『山小屋ガールの癒されない日々』 カスタマーレビュー 2019年10月28日】 情熱的読書人間のないしょ話(1654)

マガモの雄、雄の若鳥、雌、オオバン、カワウ、ツワブキの花、クチナシ、ザクロの実をカメラに収めました。ハロウィーンが近づいてきましたね。因みに、本日の歩数は10,048でした。

閑話休題、『山小屋ガールの癒されない日々』(吉玉サキ著、平凡社)は、「山ガール」ならぬ「山小屋ガール」が、山小屋で10年働いた体験を本音で綴ったエッセイです。

「23歳のとき、初めて北アルプスの山小屋でバイトをした。当時の私は登山未経験。山小屋が何か、北アルプスが何県にあるのかもよくわかっていない。そんな私が、なぜ山小屋で働こうと思ったのか?」。

「結論から言うと、私は(幼なじみの)チヒロが言うところの『山の社会』に適応できた。山小屋の仕事はハードで、体力的にはキツかったけれど、毎日が充実している。私は自分のことを社会不適合者だと思っていたけれど、そんな自分にも適応できる社会があると知った」。

「山小屋にはスタッフ仲間からチヤホヤされやすい業務がある。それは歩荷(ぼっか)だ。歩荷とは、必要な物資を人間が背負って運ぶこと。背負子(しょいこ)という道具に荷物を括りつけて背負い、山道を歩く。・・・(40キロくらいの)重さを背中に背負って、急な山道を登る。そりゃあチヤホヤされるだろう。思いものを背負えば、褒められたり、労われたり、感謝されたりする。まぁ、それが理由というわけでもないけれど、歩荷は人気の業務だ。『歩荷出たい人?』と言われると男子はほぼ全員が手を挙げる。接客や調理よりずっと楽しいらしい」。

「『こんな大自然の中で働いていたら癒されそうだねぇ』。よくお客様からそう言われる。雄大な景色、俗世の喧騒から離れた大自然でのんびりスローライフ・・・。山小屋の暮らしに対して、そんなイメージを持っているのだろう。お客様が山に癒されるのは、単純に嬉しい。私たちスタッフは、そのために全力で『ゆったりくつろげる山小屋』を演出している。しかし、山小屋は私たちにとって職場だ。好きでやっている仕事とはいえ、職場に癒される人なんているだろうか? 少なくとも私は、癒しを感じたことは一度もない。仕事も仲間も山も大好きだが、癒されはしないのだ。お客様に見えている部分はあくまで山小屋の表の顔。裏の顔は・・・戦場と言っても過言ではない」。

「どんなにコミュニケーションが得意な人だってきっと、ひとりになりたいときはあると思う。山小屋は共同生活だ。一応、『部屋のようなもの』は個々に与えられるけれど、プライバシーが完全に守られているとは言えない。私は人恋しいタイプで、共同生活はさほど苦にならなかった。そんな私ですら、『ひとりになりたいな』と感じたことは一度や二度ではない。・・・多かれ少なかれ、誰だってひとりになりたいときがあると思う。一度でも泣き場所を探したことのある人間は、同じ立場の人の気持ちがわかるようになるのではないだろうか。無理して笑っている人が押し殺している苦しさに、ちゃんと気づける人でありたい」。

「山小屋の重要な仕事のひとつに、登山道整備がある。登山道は雨や人の通行によって少しずつ削られていくため、放置すると歩きにくくなってしまう。登山者が安全に登れるよう、定期的に整備するのだ。この作業を『道直し』と呼ぶ。重い丸太を担いで運んだり、虫に刺されまくりながらの作業だったりと、なかなかに過酷。だけど、男性スタッフには人気の業務だったりする。・・・考えてみれば、丸太運びも道直しもけっこうな重労働だ。私は今まで、道直しの大変さをリアルに想像してみたことがなかったけれど、何気なく歩いている登山道も、誰かが整備しているんだよなぁ。今度から、登山道を歩くときはその『誰か』を意識してみよう。歩き慣れた登山道も、また違って見えるかもしれない」。

一見、軽いタッチのエッセイだが、意外に奥深く、いろいろと考えさせられる一冊です。