榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

塩野七生の大著『ローマ人の物語』はちょっと無理という人向けの一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1724)】

【amazon 『痛快!ローマ学』 カスタマーレビュー 2020年1月4日】 情熱的読書人間のないしょ話(1724)

10羽ほどのオナガの群れに出会いました。子供たちが凧揚げに興じています。因みに、本日の歩数は10,300でした。

閑話休題、塩野七生の大著『ローマ人の物語』(塩野七生著、新潮文庫、全43巻)を読み通すのはちょっという向きに薦めたい本があります。『痛快!ローマ学』(塩野七生著、集英社インターナショナル)が、それです。この一冊で、ローマ学の基本を学ぶことができるからです。

とりわけ印象に残ったのは、「なぜハンニバルは強かったのか」です。「なぜ、(カルタゴの)ハンニバルは寡兵をもってローマの大軍を打ち砕くことができたのか。・・・ハンニバルがローマ軍を圧倒できたのは、何も新兵器を持っていたからではありません。・・・具体的に言えば、それは騎兵の活用でした。・・・(歩兵は歩兵同士、騎兵は騎兵同士で戦うという)常識を覆した最初の人物が、マケドニアのアレクサンダー大王であり、その戦い方を継承したのが他ならぬハンニバルであったのです。アレクサンダーが『発明』し、ハンニバルが受け継いだ戦法とは、騎兵の持つ機動力を最大限に生かすというものでした」。

「天才とは『無から有を産み出すことができる人物』と思われがちですが、実際は違います。昔から目の前にありながら、誰も気が付かなかったことに気が付くことができるのが本当の天才というものです。アレクサンダーやハンニバルは、その意味においてまさしく天才でした。なぜなら、彼らはどの軍隊も等しく持っている歩兵や騎兵でも、その用兵一つでまったく違くタイプの戦争ができることを身をもって示すことができた」。

映画『七人の侍』が私たちに教えることとは、何でしょうか。「黒澤明監督の名作『七人の侍』では、野盗に困り果てた百姓たちがその撃退を7人の浪人に頼む。報酬は腹一杯の米の飯。・・・当初は7人の浪人たちも、そんな(適当にやろうという)気分であったのが、百姓を訓練したり、策を練っていたりするうちに本気になってしまう。侍の血がよみがえってくるのです。そして、その結果は7人中4人は戦死したけれども、野盗を完全に退治する。この結果を見て、雇い主の百姓たちはどうしたか。礼は言うが、もはや浪人は必要ない。よって彼らはお払い箱にされてしまう。映画のラストで志村喬演ずる浪人が言ったとおり、『勝ったのは百姓』であって、侍たちは単なる駒に過ぎなかったというわけです」。

「私は政治家と有権者の関係も、結局のところ、この映画の浪人たちと百姓の関係で充分ではないかと思うのです。つまり政治家は政治のプロとして、何かを任せきってしまう。それで仕事をうまく片付けてくれたら、さっさとお払い箱にする。もちろん、任せてみてどうにも期待はずれなら、途中でお払い箱にしてもいい。ローマ帝国における皇帝と有権者、つまりローマ市民の関係もまた同じです」。

「『百姓』は最後に勝つ。そう信じればこそ、私たちは政治家にチャンスを与えつづけるべきではないでしょうか。もちろん、その場合は結果が出るまでは外野から口を出さない。その過程では、あまり働かない『浪人』も現れるかもしれない。しかし、そこで諦めてしまえば、もはやチャンスは訪れてこないかもしれないのです。現代の民主主義の視点から見れば、カエサルもアウグストゥスも独裁者に分類されるでしょう。しかし、彼らがいたおかげで最終的に得をしたのは、ローマ市民であり、属州の人々であった。そのことを私たちはふたたび思い起こす必要があると思うのです」。

巻末の特別付録「英雄たちの通信簿――指導者に求められる5つの資質とは」は痛快です。この古代ローマ時代の指導者通信簿は、知力、説得力、肉体上の耐久力、自己制御力、持続する意志の5項目で評価されています。塩野が満点の500点を付けたのは、民主政下で30年もリーダーであり続けたペリクレスと、塩野が大絶賛するカエサルの2人だけです。これに対し、アレクサンダーは430点、ハンニバルは450点、ハンニバルに勝利したスキピオ・アフリカヌスは440点、アウグストゥスは460点、ハドリアヌスは480点、マルクス・アウレリウスは415点に止まっています。一方、キケロは300点、ブルータスは145点、アントニウスは180点、クレオパトラは190点、ネロは140点と、彼らには辛辣です。